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バイオエタノール燃料の導入について(その2)

2022年8月に本解説コーナーで紹介したエネルギー供給構造高度化法に基づくバイオエタノール燃料についての判断基準(利用目標)について、2022年12月に資源エネルギー庁で2度の検討会が開催され、2023年度以降の基準について概ね案がまとまったようなので、それについて解説する。(本解説コーナーの「バイオエタノール燃料の導入について」及び「次世代バイオ燃料について」を参照)

「我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第9回)」のまとめ概要

  • ① 対象期間
    2023~2027年度の5年間
  • ② 利用目標量
    各年度におけるバイオエタノール燃料の利用目標量は、原油換算で50万kL(現行基準と同じ)
  • ③ 次世代バイオエタノール
    2022年度を最終年度とする現行の判断基準に規定されている「2023~2027年度において毎年1万kLの利用が目標」、「バイオエタノールの利用目標の内数として利用量を2倍にしてカウントする」等の現行基準の内容を維持したうえで、対象とする期間だけを2028~2032年度とする(5年先送り)
  • ④ SAF(持続可能な航空燃料)
    当面、現行基準(目標数値は定めず、バイオエタノールの利用目標の内数として利用量を2倍にしてカウント)を維持

つまり簡単に言えば、現行の基準内容をそのままさらに5年引き延ばしたという内容である。もちろん細部では前進した部分もあり、また状況に変化があれば見直すことを条件としているが、おそらくこの内容で2023年4月以降の判断基準が定められると思料される。高度化法の判断基準は企業に目標達成の義務を課すものであり、無理なことはできない。

検討会では、経済産業省から、現状から進まない理由について以下のようなことが説明されている。

  • ① バイオエタノールの生産量、需要量は2031年にかけて世界的に増加する見通しではあるが、輸出量は横ばいで推移する見通し。生産、需要、輸出とも米国とブラジルが中心であることは変わらない。
  • ② これまでバイオエタノール導入の推進役であった欧米において、食料との競合を避けるため、トウモロコシ等の可食原料由来のバイオエタノールの利用については、横ばいあるいは削減の方針に転換。引き続き非可食原料等による次世代バイオエタノールの導入を推進しているものの、計画したようには増えておらず停滞。
  • ③ 我が国では品確法によりE3(ガソリンへの3パーセント混入)が上限(特定車両についてはE10まで)とされている。企業によってはより多く使いたいとの希望があるが、そのためには、自動車やガソリンスタンドの安全性の確認や大気汚染に関する影響等について調査・検証が必要で、さらにそれを踏まえての品確法の改正、さらには追加の設備投資が必要になる。検討の必要性はあるがすぐに対応できるものではない。
  • ④ 我が国企業においても次世代バイオエタノールの商用化に向けて研究開発・実証を行っているところであるが、原料の調達や原料からエタノールを製造する技術等について当初想定していた以上に難易度が高いことが明らかになってきている。当面、次世代バイオエタノールを大量生産することは困難であり、本格的な生産開始は2020年代の後半になる見込み。また、生産したバイオエタノールの用途としては、ガソリン混合以外に、SAFやプラスチック原料としての利用も想定しており、そちらのほうが事業としては有望。

ガソリン混合を前提にしたバイオエタノール燃料の導入政策は限界を迎えているようである。今後、燃料政策においてはSAFを中心とした議論に重点が移行していくものと思われるが、それについては2022年10月に行われた国際民間航空機関(ICAO)総会の決定が注目される。ICAOでは、従来、2050年のカーボンニュートラルに向けた短中期(2021~2035年)の目標として、「2019年をベースラインにして2020年以降CO2の総排出量を増やさない」という目標を決めていたが、今回、それをさらに強化して「2024~2035年においては、2019年の排出量の85%に抑える」ことを決定した。実際のところでは2020年以降コロナ禍で国際航空からのCO2排出量はそれ以上に減っているため、すぐに困難に直面することはないが、対策に向けた準備が急がれるところである。

【参考資料】

  • ・令和4年12月6日、28日 我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第8回、第9回)資料
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