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螺旋(らせん)水車

らせん水車
らせん水車
都留市 家中川小水力市民発電所 ドイツ リハート社製

螺旋水車は、円筒状の軸のまわりにらせん状に水車を取り付けたものであり、原理は紀元前のアルキメデスの揚水ポンプを水車として応用したものである。

螺旋水車は1~3mの低落差においても、流量変動に対する効率の低下が少なく、最高効率が80%程度ある水車であり、近年国内において農業用水路等の低落差の河川・用水路等への適用が期待できる水車として注目を集めている。

日本における螺旋水車の歴史は古く、1920年代に富山県のとある鍛冶屋が農村の深刻な労働不足を補うために、富山の扇状地のわずかな落差と豊富な農業用水に注目して、低落差で回る新式水車として螺旋水車を発明したことに端を発している。この螺旋水車は価格の安さと取扱いが容易だったことから当時爆発的ヒット商品となり1910年代に富山県内で水車が1,000台ほどしかなかった状況において、1931年までに8,700台余りが売れた。しかし戦後にモーターの普及により農地での動力用としては需要がなくなり、発電用としては火力発電が主となり、また水力発電も大規模なダムによる大出力の水力発電が主となる中で姿を消した。

しかしながら、欧州では現在、魚を保護するために河川で水力発電を行う場合、螺旋水車しか使えないという規制があり、今後螺旋水車が主となっていく見込みとなっている。というのが螺旋水車は上流から下流方向には魚の動きに制限を与えないため、魚に優しい水車になっているためである。(但し、下流から上流に対しては魚道等の対策を設ける必要がある)このような状況から欧州では螺旋水車の需要が高く、製品改善も進んでいる。例えば写真の都留市に水車を納入したドイツ・リハート社は螺旋水車を主力製品としており、カタログにおけるプラント総合効率は73.5%になっている。(リハート社は約40年前に設立されており、螺旋水車開発の歴史は比較的新しい)

なお、余談だが、欧州では生物多様性を回復するために河川の自由な流れを取り戻すことに注力しており、2022年には過去最多のダムや堰が撤去されており、その数は欧州全体で350に上るとのことである。

チェコで稼働を開始した世界最大クラスの螺旋水車発電所(2015年)
チェコで稼働を開始した世界最大クラスの螺旋水車発電所(2015年)
200kWx3ユニット

螺旋水車は、上記のように長所としては、低落差・高効率、水生生物に優しい以外に設備コストが比較的安価であり建設費も低く抑えることができ、また水車の構造が簡単なため塵芥や土砂流入に強いことがある。

但し、短所としては水量に比して全体構造が大きくなるため、設置場所への制限が出る。

日本では近年螺旋水車の普及が徐々に進んできており、2019年には日本工営㈱が岩手県一関市に国産初となる発電用の螺旋水車を納入している。

国内には農業用水路等の低落差で水量の多い、螺旋水車に適した地点が数多くあるため同水車の今後の適用拡大が見込まれる。

なお、筆者の自宅近くには多摩川が流れている。多摩川は過去には「暴れ川」と呼ばれ洪水が多い川だった。これの対策のために多摩川には高さ数メートルの堰が多く設けられている。現在は堰を水が乗り越えて流れているだけだが、ここは螺旋水車の適地ではないかと思いつつ毎週多摩川沿いをランニングしている次第である。

【参考文献】

  • ・kingetsureikou「富山平野の小水力全盛期」、農業農村工学会論文集「マイクロ水力発電用螺旋水車の動力特性と効率化に関する研究」、世界経済フォーラム「自然と生物多様性 ヨーロッパで進むダムの撤去:河川再生と生物多様性の回復に貢献」、インターネット記事「EUに於ける螺旋水車発電の、過去、現在、未来について」、新電力ネット「国産では初となる「らせん水車」が始動、日本工営が自社開発・製造」、ドイツ・リヒート社ホームページ
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