新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-

水素サプライチェーンの構築プロジェクトについて

令和5年2月13日にグリーンイノベーション(GI)基金によって行われている大規模水素サプライチェーンの構築プロジェクトの進捗状況等についてのモニタリングのための会合(産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換WG)が行われた。会合の冒頭では去る1月4日の総合資源エネルギー調査会の水素・アンモニア小委員会の中間整理(別稿にて解説済み)を踏まえ、本プロジェクトの前提となる全体計画について、既存燃料との値差を補う支援策を行うこと等の追加・修正を行った後、実施中のプロジェクトについての実施状況の説明及び意見交換が行われた。その詳細については非公開とされているが、NEDOからの報告資料と各プロジェクトの概要については資料が公開されているので、その概要について解説する。

本プロジェクトにおける研究開発項目は、次の二つである。

  • (1)国際水素サプライチェーン技術の確立及び液化水素関連機器の評価基盤の整備
  • (2)水素発電技術(混焼、専焼)を実現するための技術の確立

そして、(1)については、2030年をターゲットとして、①海外で製造された水素を液化水素の形で運ぶ商用化実証(実施主体は日本水素エネルギー株式会社(現在は川崎重工(株)の完全出資会社)、ENEOS(株)、岩谷産業(株))と➁海外で製造された水素をMCH(メチルシクロヘキサン)の形で運ぶ商用化実証(ENEOS(株))が中核を構成し、さらに2030年以降をにらんで③液化効率向上のための技術開発(川崎重工(株))と④直接MCH電解合成の技術開発(ENEOS(株))が行われ、関連するものとして⑤液化水素に係る材料評価基盤技術の開発(国立研究開発法人物質・材料研究機構)が行われるという構成である。

また、(2)については、①大型ガスタービンによる水素混焼((株)JERA)、➁中型ガスタービンによる水素混焼・専焼(関西電力(株))、③大型ガスタービンによる水素専焼(ENEOS(株))の3つの実機実証事業で構成されている。

合計で8件のプロジェクトで構成され、想定される事業規模約3000億円、支援規模約2200億円の大型のプロジェクトである。

本件GI基金事業については、その内容を理解するうえで注意すべき点が2点あると思われる。

一つは上記の(1)①、➁の商用化実証及び(2)①、➁、③の実機実証についてのベースとなる技術開発は、NEDOにおいて通常のNEDO交付金によるプロジェクトとして以前から実施中(一部はすでに終了)であり、その成果を本件実証に用いるという計画であることである。今回のGI基金事業についての実施主体からの報告資料では2030年以降をにらんだ(1)③や(1)④の技術開発部分ばかりが熱心に進められているように見えるのはそのためである。

もうひとつの注意点は、GI基金によるこれらの実証事業は、2030年をターゲットとして実証事業を行ったあとそのまま実用化に移行していくことを想定して準備が行われていると思われることである。つまりこのGI基金による実証事業への参加者は、単に実証事業の実施にコミットするだけでなく、そのまま水素の実用化局面において中心的なプレイヤーとして行動することをコミットしていると考えられる。そのため事業の実施に当たっても2030年以降の実用化局面まで考えて、どこで製造される水素を使うことにするのか、また日本のどこで利用するのかといったことも慎重に考えなければならず、水素の製造、利用に係るさらに幅広い関係者の理解と協力を求めながらの準備であるため、実証事業とはいえその実施に向けて準備に時間を要することも理解できるところである。

おそらく実用化までにらんだ場合、本質的には、どこで誰によって生産されたグリーン水素又はブルー水素を使うのかという点が最大の論点になると思われるが、残念ながら研究開発事業の主体であるNEDOは微妙にその論点の中心から外れている印象で、公開された資料ではその点についてはほとんどわからない。

本件GI基金事業を含むNEDOの研究開発、JOGMECによる水素資源確保への出資・債務保証、さらには長期脱炭素電源オークション、そして上記の中間整理で示された国による「大規模利用拠点3か所、中規模利用拠点5か所の選定」等相互に関連し考えなければならない課題と手順は多い。関係者の十分な連携によって局面を切り開いていただくことを期待するところである。

【参考資料】

  • ・令和5年2月13日 産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会エネルギー構造転換WG資料
ページトップへ