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水力発電設備における保安管理業務のスマート化技術導入ガイドライン(スマート保安)

ICT、IoTを活用した遠隔保守の導入を検討している水力発電事業者の一つの手引きとして活用されることを目的に2021年に策定された『水力発電設備における保安管理業務のスマート化技術導入ガイドライン※1(以下「ガイドライン」)』が、2022年4月に改訂され、経済産業省産業保安グループ電力安全課より公開されています。

水力発電は、再生可能エネルギーの中でも、純国産で、渇水の問題を除き、天候に左右されない優れた安定供給性を持ち、長期的に活用可能なエネルギー源であり、地域共生型のエネルギー源としての役割を拡大していくことが期待されています。一方で、設備の経年化と技術的ノウハウを持つ職員の定年退職等による保守管理体制の低下が懸念されはじめており、設備の適切な保守管理を維持するセンサーやそれによって得られるデータの活用等を通じた先進的な保安管理業務(スマート保安)の実現が期待されています。

ガイドラインでは、水力発電設備の保安管理業務として、日次・月次で行われる現場の「巡視・点検業務」と定期的に実施される「設備の検査業務」に大別し、重大事故(水力発電設備の爆発・漏洩・火災・水没・設備損傷等)の未然予防を一義的な目的としながらも、設備利用率向上や保安管理コストの抑制にもつながるとされています。このような保安管理業務は、「情報入手」、「異常判断」、「対応判断」、「対応動作」の各プロセスの連なる業務ですが、スマート保安のポイントは、このような保安管理業務の各プロセスを「機能向上」、「効率化」することにあるとされています。

巡視点検は、保安管理業務の中でも大きな割合を占める作業ですが、ICT等の技術活用が不十分とされています。水力発電事業では、その性格上、関連設備が山間地域等の遠隔地や立ち入ることが険しい環境におかれ、通信インフラの整備も十分でない場合が多いことが、先進技術導入の障壁になっているものの、スマート保安化の効果はより大きいと思われます。ガイドラインでは、これまで熟練技術者が対応・判断を行ってきた保安管理業務を ICT等で代替することで判断内容が客観化・高度化され、各種設備状況データの分析と携行機器の活用により知識集約化が図られる将来像(図)と、各プロセスのスマート保安の手法とそれらへの適用技術(表)を示しています。

保安管理業務とスマート化手法の全体像
出典:水力発電設備における保安管理業務のスマート化技術導入ガイドライン
図.保安管理業務とスマート化手法の全体像

表.スマート化類型

スマート化類型 技術例 概要
監視の常時化(高頻度化)・遠隔化 デジタルセンサ
WEBカメラ
アナログメータの目視確認等、現場での五感による確認を、デジタルセンサーから得られるデータやカメラ映像のモニタリング等に置き換えることで、状態監視の常時化(高頻度化)・遠隔化を図ることができる。また、従来把握できなかった状態の見える化が可能となる。
現場確認の無人化・遠隔化 ロボット
ドローン
現場状況の確認をロボット・ドローンによる遠隔監視に置き換えることで、現場確認の無人化・遠隔化を図ることができる。
センシングデータのデジタル化 アナログメータのデジタルセンサへの置き換えやアナログメータ指示値のカメラ読み取りにより、センシングデータをデジタル化し、プラント状態の見える化や分析に活用することができる。
作業記録のデジタル化 タブレット 現場作業の記録をデジタルデータとして現場入力することによって紙面での管理を効率化することができる
遠隔伝送 5G ネットワーク環境を整備することによって遠隔地へのデータ転送を可能とする。特に5G技術を活用することで動画などの大容量データや複数デバイスの同時接続が可能となる。
分析の高度化 AI デジタルデータの内容を人工知能(AI)に学習させることによって、保安管理の様々なノウハウを非属人的な形で抽出・整理することが可能となる。
現場作業支援 ウェアラブルカメラ
スマートグラス
xR技術
ウェアラブルカメラを通じて、遠隔地にいるベテラン作業員から現地にいる作業員に対する指示が可能となる。また、xR技術を活用したスマートグラスなどを装備することで、各種データに基づいた判断の支援も可能となる。
遠隔制御 遠隔からの監視・操作により、現場に出向かずに設備の停止・復旧対応が可能となる。
遠隔現場処置 ロボット
ドローン
現場にロボット・ドローンを配備することによって異常時の初期対応に活用することが可能となる。
データの共有化・ビッグデータ化 プラットフォーム 保安管理データを複数の発電所や組織の間で共有・ビッグデータ化することによって、より信頼性・精度の高い分析が可能となる。

出典:水力発電設備における保安管理業務のスマート化技術導入ガイドライン

新エネルギー財団が2024年2月に開催した「中小水力発電技術に関する実務研修会」において、「水力発電所におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)実現に向けた取組」と題して岩手県企業局四十四発電所で行われた実証実験※2の成果が日立三菱水力株式会社さまから、保守高度化支援装置、レトロフィットセンサ、IPカメラ、巡回ドローン、振動センサ、技術伝承ツール等の実例に基づいた講演※3が行われました。

水力発電の特徴である長期間にわたり安定して運転できるメリットを受けるためには、運用開始後の適切な保安管理(保守・運用)が欠かせませんが、スマート保安が広まることで、水力発電事業者の課題解決に役立つとともに、水力発電所の新規開発や再開発へつながることを期待します。

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