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洋上風力について(その2)―低価格応札で3区域総取り―

洋上風力について(1)において述べた通り、「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」の3区域の事業者が選定された(2021.12.24経済産業省公表)

何よりも三菱商事Grが驚異の低価格応札で3区域を総取りしたことは全く予想外であり、おそらく世界の洋上風力ビックネームを駆逐したものと思われる。各区域の供給価格は、秋田能代等13.26円/kWh、秋田由利本荘11.99円/kWh、千葉県銚子16.49円/kWhであり、他グループとの価格ベースでの格差は非常に大きく約5円/kWh~13円/kWhの差があり圧倒的な強さを示した。

入札の上限価格は29円/kWhであるが、これは、「発電コスト検証に関する報告 令和3年9月」を参考として、調達価格等算定委員会で決められている。なお、この報告によると洋上風力の発電コストは2020年30.0円/kWh、陸上風力は19.8円/kWhである。今回の落札価格11.99円/kWh~16.49円/kWhは、入札上限価格の29円/kWhの約1/3~1/2程度であり、陸上風力より安く驚愕の低水準と言える。また、海外の洋上風力の発電コストを見ると、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の 2018年LCOEの加重平均値は、0.127 USD/kWh(115円/USDとすると14.6円/kWh)であり、今回の応札価格は世界レベルに達しているといえる。

一方、「どのようにして低コストが可能となるのか」また、「今後の競合他社の対応は」等については、当然のことながら疑問や懸念が生じる。ここでは新聞などで報道されている内容について紹介しておく。

  • 資材調達の合理化や発電電力量の向上
    他の応札Grを見ると3区域すべてに応札しているのは、三菱商事Grのみであり、複数海域の獲得を前提に調達量を増やしてコストを下げているとの指摘がある。特に、すべての区域に世界最大級のGE製風車(HALIADE-X、1.26万kW×134基)を採用し調達量を増やすとともに発電電力量をアップさせることはコストを下げる要因としては大きい。
  • 再エネ価値を評価する需要家への販売
    三菱商事のプレス発表において、Amazon、NTTアノ-ドエナジー、キリンホールディングを協力企業として選定し地域共生策を共同で実施するとしており、特に、電力の小売りを通じて再エネ価値を評価する需要家との共同戦略(ex.高値販売)との指摘がある。
  • 期限内に発電所を稼働できるか
    今後の焦点としては、提案で設定した6~8年の期限内に発電所を稼働できるかとの指摘がある。秋田県沖や千葉県沖では、競合他社が先行して海域調査や地元関係者との調整を進めてきており、今後、海底調査やSEP船の手配などを考慮した場合、設定した期限内に稼働できるのか疑問との指摘もある。
  • 競合他社は、抜本的な戦略見直しが必要
    洋上風力の建設には数千億/区域の投資が必要であり(例えば、前述の発電コスト検証に関する報告を参考として、建設費を50万/kWとすると秋田県由利本荘沖WFは約4100億円となり、3区域合わせると1兆円近い大規模な投資となる)経営体力強化のための業界の集約が起こる可能性も指摘されている。

このような超低価格での事業が実現できれば、国民負担の軽減につながり、再エネの将来にとっても明るい材料であるとの見方が成り立つ。

なお、今回の1社独占を踏まえて、経済産業大臣から「他のプロジェクトの人たちにも今後参加しやすい仕組みを検討しようと思う」との発言があった。国が設定した目標達成のためには、洋上風力について(1)において述べた通り、毎年 大規模の案件形成が必要とされものであり、今回の結果を受けて洋上風力事業への参入意欲が減退し、競争環境が悪化しないことを期待したい。

次の公募は、秋田県八峰町・能代市沖で、既に募集が始まっている。

洋上風力発電事業者の選定結果(3地域発電出力合計:168.84万kW)
(経済産業省 ニュースリリース2021.12.24をもとに作成)
洋上風力発電事業者の選定結果
2020年電源別発電コスト試算結果
(経済産業省 発電コスト検証ワーキンググループ報告 令和3年9月より抜粋)
2020年電源別発電コスト試算結果
世界の洋上風力発電コスト
(自然エネルギー財団 洋上風力発電に関する世界の動向 2021.6より抜粋)
世界の洋上風力発電コスト
(1)2018年のLCOEの加重平均値は、0.127 USD/kWh(115円/USDとすると14.6円/kWh)であり、2010年0.16USD/kWhと比較すると20%以上低下した。
(2)また、2018年のLCOEのレンジは、0.1USD/kWh~0.19 USD/kWh (11.6円/kWh~21.9円/kWh)である。
(3)2030年までにはさらなる低下が見込まれ、0.05 USD/kWh~0.09 USD/kWh (5.8円/kWh~10.4円/kWh)のレンジに入る見込みである。
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