これまでに実施した運転試験の結果では、燃料電池の優れた低環境負荷特性や信頼性・安定性の向上など、実用化に向けた着実な進歩を確認しています。また、省エネ効果やCO2削減効果をより増大させるには、様々なエネルギー需要や日々変化する生活パターンに細かく対応できる高度なシステム制御が重要であることもわかってきました。

システム制御の最適化を進めるには、システムを構成する要素毎に詳細に検討する必要があります。特に燃料電池は、改質器(都市ガス等の原燃料から水素を製造する装置で発電部と一体化する構造が一般的)と発電部という異なる反応メカニズムが共存する方式であるため、その構成要素を分離して互いの影響を排除したレファレンスデータが重要になってきます。さらに、実環境での挙動を示す運転試験データは、製品の実用化開発にとって不可欠なデータであるとも言えます。

そこで、平成16年度は、従来からの運転試験の継続実施に加えて、外部から直接水素を供給し、発電する燃料電池を使用した実環境での運転試験を実施して、改質器に影響されないシステムの運転試験データを取得します。

この試験結果を精緻に分析することにより、家庭用固体高分子形燃料電池コージェネレーションシステムのさらなる高性能化・高機能化につながる貴重な知見を獲得することを目指します。
注)定置用燃料電池実証研究

住宅等を対象とする固体高分子形燃料電池コージェネレーションシステムはエネルギーの総合利用効率を高められるため、二酸化炭素の排出量低減効果が期待でき、その普及により脱温暖化の社会づくりに貢献できます。また、SOx、NOx等の大気汚染物質の排出削減効果も期待できます。しかし、固体高分子形燃料電池は新しい技術であることから、実使用条件における技術的課題を抽出するとともに、環境特性、エネルギー総合効率、安全性等に関する基準・標準に資するデータを取得する必要があります。

新エネルギー財団では、「定置用燃料電池実証研究」において、環境条件等の異なる複数の試験サイトに固体高分子形燃料電池コージェネレーションシステムを設置し、種々の実使用条件下で運転した場合の各種データを収集する「運転試験」や、電力系統への影響評価データを収集する「系統連系影響評価試験」を実施しています。目的は、これらのデータの分析から獲得される知見を蓄積・共有化して、様々な環境、使用条件のもとでの、実用機としての稼働状況の把握、課題の抽出にあります。具体的には、省エネルギー性・環境調和性の効果や課題等の明確化、経済性向上のための課題の明確化、系統連系技術の確立に向けた課題への対応、普及促進のための課題の明確化等を行っています。

平成14年10月より、まず全国12箇所の試験サイトで順次「運転試験」を開始しました。国内の燃料電池メーカー6社から固体高分子形燃料電池コージェネレーションシステムを借上げ、各試験サイトで試験を実施する6法人に提供し、約1年間、一般家庭等に設置して所定のデータを取得しました。固体高分子形燃料電池コージェネレーションシステムの出力は1kW級及び5kW級を用意し、燃料種は都市ガス、LPG、ナフサで実施して、収集したデータの分析結果を本年3月16日に開催された「中間報告会」にて発表しました。

ここでは、使用した全12台の固体高分子形燃料電池コージェネレーションシステムが優れた低環境負荷特性を示し、かつ大きなトラブルもなく1年間の実環境での運転実績をあげたことにより実用化への着実な足がかりを得た一方で、多様な生活パターンに対する追随性の面で課題があることを報告し、その実例と改善策を提示しました。

平成15年10月からは、「運転試験」の第2期として燃料種に灯油を追加し、1kW級では都市ガスとLPG、5kW級では都市ガス、LPG、灯油、ナフサの4種類による試験を開始しました。また、試験サイトも環境条件や利用形態の多様化を考慮した全国31箇所を新たに選定して、「系統連系影響評価試験」1箇所とあわせ、現在は全国32箇所の試験サイトでデータ収集を実施しています(別表参照)。

平成14年度に使用した13台の固体高分子形燃料電池コージェネレーションシステムは、主に平成14年の春から夏にかけて製造された機種です。これに対し、平成15年度に開始した試験サイトに使用している32台は、主に平成15年の秋から冬にかけて製造された機種です。したがってこの間約1.5年が経過しており性能も格段に向上しています。特に発電効率では3~4ポイント程度の改善が見られ、運転制御方法の高度化もあって、試験結果の大幅な向上が期待されています。

来春に予定している「最終報告会」では、今回新たに開始する水素燃料方式の燃料電池による2箇所の試験サイトでの運転試験結果も加え、本国庫補助事業「定置用燃料電池実証研究」の3年間の総括を行います。
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