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稲わら、麦わら、籾殻について

令和4年12月15日に新電力大手のイーレックスが、ベトナムにおいて同国内では商用第1号となるバイオマス発電所の起工式を行った。イーレックスにとっても海外で初めての発電事業となる。ベトナム電力総公社傘下の再生可能エネルギー発電事業者等との共同出資による事業で、定格出力2万KWで一般家庭9万3000世帯分の電力を賄うとのことである。

特に注目されるのは、籾殻を主燃料とした地産地消型のバイオマス発電所であるという点である。ベトナムは、タイに次ぐ世界で第2位のコメの輸出国であり、今回のプロジェクトの立地場所であるハウジャン省はメコン・デルタに位置し、メコン・デルタでは治水事業の進展により今日ではコメの三期作が主流となっているとのことから、籾殻で2万KWの発電にもなるほどと思い、これに稲わらまで使えばどれほどのものになるかと夢は膨らんだところである。

そんな中、令和5年3月9日に総合エネルギー調査会新エネルギー小委員会バイオマス持続可能性WGが開催された。同WGは、FIT/FIP制度の運営を担う調達価格算定委員会からバイオマス発電に係る新規燃料候補についての検討を依頼されており、今回の会合では、発電事業者団体から追加要望のある稲わら、麦わら、籾殻を検討テーマとして取り上げ、農林水産省からヒアリングを行った。

近時、再生可能エネルギーを活用した農村振興に熱心に取り組んでいる農林水産省ではあるが、今回のヒアリングにおいては、稲わら、麦わら、籾殻をFIT/FIP制度におけるバイオマス発電用の新規燃料に加えることについては反対であった。

その理由は以下のとおりである。

  • (1)飼料との競合
    飼料用の稲わらについては、泥がついていないこと、しっかり乾燥させていること等の条件があり、国内で生産される稲わらの1割弱に相当する70万トンが飼料としてとして利用されているが、それで不足する分を現在は主に中国から輸入している。近時、輸入価格が大幅に上昇していることから、自給率の向上を図るため、国産稲わらの飼料としての利用拡大のための支援事業等を行っているところである。
  • (2)肥料等との競合
    我が国では、化学肥料の原料である尿素、りん安、塩化カリはほぼ全量を輸入に依存。加えてこれらの資源は世界的に偏在しており、我が国の輸入相手国は尿素の場合だとマレーシアと中国で8割、りん安は中国だけで8割弱、塩化カリはカナダが8割となっている。

こうした状況の中で、我が国で作られた稲わらの9割近くは直接あるいは堆肥化して農地にすきこまれ、土づくり資材や肥料として利用されている。稲わら、麦わらや稲わら堆肥を連用すると化学肥料単用よりも収量が多く、品質も高くなる。稲わら、麦わらには肥料の3要素である窒素、リン酸、カリウムが含まれており、すきこみによって化学肥料を節約することができる。輸入原料に依存した化学肥料が高騰する中で、農林水産省としては食糧生産を維持するため国内肥料資源の利用拡大を推進しているところ。

また、籾殻も肥料の3要素は含まないものの、堆肥や農地の排水改良用の資材として従来から活用されており、さらに籾殻を低温で炭化させた籾殻燻炭の施用は長期にわたる炭素の貯留技術として温暖化対策上の効果も認められ、J-クレジットの対象とされている。

バイオマス資源の利用については、従来から焼き畑プランテーションのような持続可能性の乏しいものについては否定的に考えられており、さらに近年では、食料の確保との関係から、食用にできるものをエネルギー利用することや農地をエネルギー用の作物の生産に供することにも否定的になってきている。そのため、FIT/FIP制度でも基本的な考え方として「非可食かつ副産物であるもの」のみがエネルギー利用できるものとされている。稲わら、麦わら、籾殻は「非可食かつ副産物」に該当するものではあるが、我が国の食料生産において従来から活用されてきていることを踏まえると、農林水産省の意見も理解できるところである。

冒頭のベトナムのバイオマス発電所も、ベトナムにおける農業の現状をいろいろと考え抜いた上での籾殻利用の発電事業であるのかもしれない。

【参考資料】

  • ・令和5年3月9日総合資源エネルギー調査会新エネルギー小委員会バイオマス持続可能性WG資料
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