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岩手県久慈市、需要家に多様な手法で再エネ導入へ

岩手県北東部に位置する岩手県久慈市は人口が約3万人、国内最北端の海で漁をする「北限の海女」のまちである。2011年の東日本大震災の地震や津波によって市内全域が停電したことを教訓に、エネルギーの地産地消に取り組み始めた。2019年12月には、県北部の8市町村とともに2050年までに二酸化炭素の排出量の実質ゼロを目指すことを宣言した。そして、2022年11月には宮古市とともに岩手県で初めて環境省の脱炭素先行地域に選定されている。

久慈市でエネルギーの地産地消を進める中心的な役割を担っているのが、自治体新電力の「久慈地域エネルギー」だ。同社は地元の建設会社、LPガス販売会社、住宅建材販売会社、地元工務店の4社が設立し、その後、久慈市と電子部品製造会社が資本参加している。

久慈地域エネルギーは、当初は卸電力市場から調達した電力を販売していたが、脱「卸電力市場」を進めている。自立・分散型の太陽光発電事業に参入したほか、民間企業や岩手県企業局との電力供給契約(相対契約)に切り替えた。卸電力の高騰で撤退する新電力が相次ぐなか、自ら電源を確保することで経営の安定につなげている。

久慈市の長内川にある滝ダムは、岩手県企業局が運用する洪水調節や発電などを目的とした多目的ダムで滝発電所の年間発電量は、約900世帯分に相当する約300万kWh、2020年4月から滝発電所でつくられた電気を久慈地域エネルギーが購入し、地元の再生可能エネルギー「アマリングリーンでんき」のブランドで、市の公共施設や市内の企業、住宅へ割安の料金で販売している。特に、経営が厳しい三陸鉄道の久慈駅向けには5割引で電気を供給するなど、新電力事業で生まれた余剰金を地元に還元している。

また、久慈市と久慈地域エネルギーが連携して取り組んでいるのが、山あいにある山形町地域への再エネ導入の促進だ。久慈市は、山形町地域にある全ての住宅、事業所、宿泊施設、公共施設などの需要家を対象に、自己所有型をはじめとする多様な手法で太陽光発電と蓄電池の導入を目指している。今後、オンサイトPPAやその他の手法についても検討を進める。脱炭素先行地域に選ばれた地域は、50億円を上限として交付金が活用できる。久慈市は、地元住民の理解を得ながら、国からの交付金を有効に活用して山形町地域の住宅などへの再エネ導入を進めて、地域レジリエンスの強化を図る方針だ。

さらに、久慈市では、山形町地域に設置予定の大規模風力発電のうち1基を地産地消用として活用することを検討するほか、バーク(樹皮)を活用した木質バイオマス熱電併給システムを福祉施設に導入する計画だ。それに加えて、地産地消用電源として山形町地域の廃校になった小学校のグラウンドなどに太陽光発電の導入を進める。久慈市の遠藤譲一市長は「本市では地域に利益をもたらす再生可能エネルギー事業の導入を推進しており、共同提案者と緊密に連携して取り組みを進めたい」と話している。

過疎に苦しむ地方の市町村において、住宅や事業所、宿泊施設、公共施設などの需要家に、多様な手法で太陽光発電と蓄電池の導入促進を目指す本取り組みは画期的であり、全国に水平展開できるものと考える。今後も久慈市の取り組みに注目したい。

【参考資料】

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