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GX実現に向けた基本方針について

令和4年12月22日、内閣総理大臣が議長を務めるGX実行会議において「GXに向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」が取りまとめられた。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する「グリーントランスフォーメーション(GX)」を実現するための道筋を明らかにするものである。

一つの大きな柱が「エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取り組み」であり、ここでは省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの主力電源化、水素・アンモニアの導入促進、さらには本解説コーナーの別稿で取り上げた国土交通分野や農林水産分野の対策等と並んで、原子力の活用が取り上げられている。従来から言われてきた2030年に向けての再稼働の促進に加えて、将来にわたって持続的に原子力を活用するため次世代革新炉の開発・建設に取り組むことが明記された。また、既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、現行の最長60年までとの制限は残しつつも一定の停止期間については追加的な延長を認めることとした。新聞報道等でも大きく取り上げられたように、この点こそが今回の「基本方針」の最重要ポイントである。再生可能エネルギーの主力電源化だけではエネルギーの安定供給は難しく、原子力の活用は不可欠である。

ただ、本基本方針にはもう一つ大きな柱があり、それが「「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行」である。この構想はいくつかのパーツによって構成されているが、本基本方針決定の翌日12月23日に閣議決定された令和5年度予算案において早くもその一部が具体化して姿を現わしている。それが、環境省や経済産業省の予算資料に記載されている「GX支援対策費」である。本基本方針では、この構想の早期具体化及び実行に向けて必要となる法案を次期通常国会に提出するとしていることから、予算案の国会での審議までには必要な関連法案も準備して審議に臨むことになると思われるが、おそらくその法案は次に述べる「GX経済移行債(仮称)」に関することをその内容に含むものではないかと考えられる。

以下に「成長志向型カーボンプライシング構想」の各パーツについて概略を説明する。

  • (1)GX経済移行債(仮称)の発行とそれを活用した先行投資支援
    2023年度から「GX経済移行債(仮称)」という一種の国債を発行して資金を調達し、国として今後10年で20兆円を目標に先行投資支援を行う。支援の対象については、①CO2の排出削減に効果があるだけでなく産業競争力強化・経済成長に効果があるものであること、②企業の行動や需要側の行動を変えていくような規制や制度面の措置と一体のものであること、③国内の人的・物的投資拡大につながるものであること等の条件が設定され、優先順位の高いものから支援を行っていくこととされている。そしてこの「GX経済移行債(仮称)」の償還の裏付けとなるのが、次に述べるカーボンプライシングである。
  • (2)カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
    CO2の排出に値付けをする(負担が発生するようにする)ことにより、CO2の排出がないあるいは排出が少ない製品・事業の付加価値を向上させるのがカーボンプライシングである。ただ、代替技術の開発状況や国際競争力への影響等を踏まえて行わなければ、単に企業の負担を増やすだけになったり、国外への生産移転を招くことになったりして、我が国経済に悪影響を及ぼすことになるので、直ちにこれを導入するのは適当ではない。まずはGXに向けて企業が先行して取り組む期間を設けたうえで導入していく必要があり、そのための中長期の道筋をあらかじめ示すことにより、企業に対策を講ずるインセンティブを与えることができる。かかる考え方から本基本指針ではカーボンプライシングとして大別して二つの仕組みを打ち出している。一つがCO2の多排出企業を中心に行う「排出量取引制度」であり、もう一つが広くGXへの動機づけをする「炭素に対する賦課金」である。
    • ①排出量取引制度
      これについては2023年度からGXリーグ(GXに主体的に取り組もうとする企業の集まり。令和4年11月時点で約600社が参加。経済産業省が事務局を務める。)において自主参加型で試行を行いつつ検討を進め、2026年度から本格稼働を行うべく準備を進めることとされている。
      またこれとは別に発電事業者(海外への生産移転が難しい上、再生可能エネルギーや原子力といった代替手段もある)については、EU等の事例を踏まえ、再エネ賦課金(FIT賦課金)がピークアウトしていくと想定される2033年度から有償オークションによる排出枠の付与を行うこととしている。
    • ②炭素に対する賦課金
      これについては5年間の準備期間を設けたうえで、2028年から導入する。化石燃料の輸入事業者等を対象に当初は低い負担で導入し徐々に引き上げていくこととしている。

20兆円規模の支援予算という点に目を奪われがちであるが、規制や制度的措置との一体型での支援とされており、今後の動向については十分注意を払いつつフォローする必要がある。

【参考資料】

  • ・令和4年12月22日内閣官房GX実行会議 資料1「GX実現に向けた基本方針(案)」
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