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GX脱炭素電源法案の概要について

2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」を受けて、GX推進法案(別稿にて解説済み)に続く第2弾として、2月28日に「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(GX脱炭素電源法案)が閣議決定され、国会に提出された。本法案は、(1)地域と共生した再生可能エネルギーの最大限の導入促進と(2)安全確保を大前提とした原子力の活用という二つの課題に対応して、関連する5つの法律(電気事業法、再エネ特措法、原子力基本法、炉規法、再処理法)を改正しようとするものである。新聞報道等では後者の原子力の活用にフォーカスした形で報道されているが、本稿では前者(1)に絞って解説する。

  • ➀再エネ導入に資する系統整備のための環境整備
    • イ)電力広域的運営推進機関が策定した広域系統整備計画に含まれる送電線のうち特に重要なものの整備計画を経済産業大臣が認定する制度を新設。(電気事業法第28条の49)
    • ロ)上記の認定を受けた整備計画のうち、再エネの利用の促進に資するものについて、従来の運転開始後の系統設置交付金(再エネ特措法第28条)に加え、工事に着手した段階から交付金を交付する制度を新設。(再エネ特措法第28条の2)
    • ハ)同じく上記イ)の認定を受けた整備計画に係る送電線の整備に向けた資金の貸付を電力広域的運営推進機関の業務に追加。(電気事業法第28条の40)
    この制度については、当面、北海道~東北~東京を結ぶ系統、九州と中国地方を結ぶ系統等が対象として想定されているようである。
  • ➁既存再エネの最大限の活用のための追加投資促進
     太陽光発電に係る早期の追加投資(更新・増設)を促すため、追加投資部分に既存部分と区別した新たな買取価格を適用する制度を新設。(再エネ特措法第10条の2)
     本制度については経緯を含め多少の追加説明がいると思われる。もともとの本質的な問題点としては、おそらく制度開始のころの太陽光発電に係る買取価格の設定(2012年度:40円/kwh、2013年度:36円/kwh、2014年度32円/kwh)が甘かった(2017年度には21円/kwhとほぼ半減)か、そうでないとすれば制度開始後の太陽光パネルの価格の下落がすさまじく早かったかというところにあると思料される。そのため、事業者は新規の太陽光発電の開始ではなく、既存施設への追加的なパネル設置(いわゆる過積載)を進め、それにより当初の高価格帯での買取量が増加することとなったため、一定以上の増設案件については、既存部分を含めてすべて新規扱いの価格にすることとした経緯がある。当初の買取価格の算定時には想定されていなかった抜け道を塞ぐという趣旨のものであったが、制度開始から10年以上経過して、過積載も買取価格の算定に織り込まれてしまい、新規立地についての制約が大きくなったところで改めて考えてみると、増設による増出力部分について初期の高価格を適用するのは論外としても、既存部分まで含めて新価格とする必要はなく、増設による増出力部分についてのみ新価格を適用するということでよいのではとなったものと思われる。
  • ③地域と共生した再エネ導入のための事業規律の強化
    • イ)事業計画の認定要件に、事業内容を周辺地域に対して事前に周知することを追加。事業譲渡の場合も同様。(再エネ特措法第9条、第10条)
    • ロ)関係法令に違反したまま事業を行う事業者にFIT/FIPの国民負担による支援を行うのは適当ではないため、違反状態の事業者への支援を一時留保する制度を新設。
      法律的な仕組みとしては、まず、認定された計画(当然、法令順守が前提)に従って事業を行う義務を明定。委託事業者への監督責任も明記。(再エネ特措法第10条の3)
      その上で義務違反者には交付金相当額の積み立てを命令し、電力広域的推進機関による交付金の支払いの際に相殺して積み立てたことにする。(再エネ特措法第15条の6、7、8)
      その後法令違反が事業者により速やかに解消されれば、積立金の取戻しを認めるが、解消しなかった場合は返還を命ずる。(再エネ特措法第15条の9,10,11)
    なお、法律改正事項ではないが、再エネ導入のための事業規律の強化の一環として、事業を行う際に森林法、盛土規制法等の許可を受ける必要がある場合にはそれを既に取得していることをFIT/FIP認定に当たっての要件とするという措置も併せて講ずることとしている(省令)。

上記①、②、③とも長い時間をかけて丁寧に議論された結果であり、それぞれ妥当なものであると思われるが、これらに上記のように「(1)地域と共生した再エネの最大限の導入促進」(「法律案の概要」説明資料)という表題をつけるのであれば、①の系統整備と並ぶ重点施策として「産業の再配置によるエネルギーの地産地消」も取り上げていただければよかったと思われるところである。今こそ苫小牧東部、むつ小川原ではないだろうか。

【参考資料】

  • ・経済産業省ホームページニュースリリース R5年2月28日「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案の概要」等
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