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株式会社脱炭素化支援機構について

令和4年10月28日に株式会社脱炭素化支援機構が設立された。令和4年5月25日に地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律が成立し、7月1日に施行されたことを受けて、4か月の準備期間を経て設立に至ったものである。

まず、同機構の概要について、以下に説明する。

<目的>同機構は、国の財政投融資からの出資と民間からの出資を原資としてファンド事業を行う。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素に資する多様な事業への投融資を行うことにより、脱炭素に必要な資金の流れを太く、速くし、経済社会の発展や地方創生への貢献、知見の集積や人材の育成など新たな価値の創造に貢献する。

<設立時出資金>204億円(民間82社(金融機関等57社、事業会社25社)から102億円、国の財政投融資(産業投資)から102億円) うち資本金が102億円、資本準備金が102億円

令和4年度の財投予算としては200億円が認められており、投融資の状況により追加出資(98億円まで)が可能。令和5年度財投予算(案)では、倍増の400億円の出資と新規として200億円の政府保証が認められている。

<投融資の対象となる事業分野例>

  • 再エネ発電、バイオマス燃料製造
  • 再エネ・蓄エネ・省エネなどの脱炭素関連の製品やサービス、それらに関する素材や部材の製造・販売
  • プラスチックのケミカルリサイクル、代替素材の開発
  • 森林整備を伴う林業再生、耕作放棄地での燃料製造

<支援基準>同機構が支援決定を行うに当たって従うべき基準(環境大臣告示)

  • 温室効果ガスの削減効果が高いこと。経済と環境の好循環の実現を踏まえたものであること。
  • 民間事業者の後押しとなること。民間事業者等の出資総額が機構からの出資額以上であること。
  • 収益確保が認められること
  • 地方公共団体や地域住民との適切なコミュニケーションを確保し、地方公共団体が示す環境配慮の考え方に従っていること

同機構の概要は以上のとおりである。これが全くの新規事業であればあまり違和感はないが、これまでの経緯を踏まえて考えるといくつかの問題点が指摘できる。

  • ① 本件ファンド事業については、その前身として2013年から一般社団法人グリーンファイナンス推進機構で行われてきた地域低炭素投資促進ファンド事業がある。全部で14件あるとされる官民ファンド事業(運営法人ベースでは16)の一つであるが、他のほとんどのファンドが法律に根拠を持ち、運営する法人の役員の選任等を含めた指導監督についての大臣の権限等が明確に規定されているのに対し、このファンドは法律に根拠を持たず、環境省が補助金交付要綱(補助金の交付についての決まりは定められるが、法人そのものの運営までは関与できない)で監督してきたものである。今回の温対法の改正法案の説明資料でも現行のファンドが法的な位置づけを持たないことから、その点を改めきちんと法律に位置付け、環境省としての指導監督を行っていくとしている点はある意味評価できるが、これまでの運営の危うさが指摘されるところである。
  • ② また、別の見方をすれば、一般社団法人グリーンファイナンス推進機構により低炭素投資については既に10年近くリスクマネーの供給をおこなってきているのであれば、今更新たに組織を整備し、民間からの出資を募り、事業を始めるのかとも思われるところである。2012年の固定価格買取制度の開始以降、我が国でも再生可能エネルギーの導入は飛躍的に拡大してきており、それに伴って民間によるリスクマネーの供給も進んできていると思われるところ(参考:令和3年度新エネ大賞資源エネルギー庁長官賞 北都銀行 地域の再エネ導入拡大に向けた北都銀行の挑戦)、国主導の事業の展開はかえって民間の活動機会を妨げるのではないかと危惧されるところである。上記の支援基準の詳細をさらに詰め、同機構と民間の役割の違いを明確にすべきと思われるところである。

【参考】

  • ・令和4年10月28日 環境省脱炭素化支援機構設立準備室「株式会社脱炭素化支援機構(JICN)のご案内」
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