治水ダムや多目的ダムは、大雨や台風の際にダムへ流れ込む洪水の一部を貯水池に貯め込み(洪水調節)、下流河川が安全に流せる量を見込んでダムから放流する機能を有しています(図1③参照)。しかしながら、平成30年7月の西日本豪雨や令和元年10月の台風第19号では、記録的な豪雨により甚大な洪水被害が発生しました。このとき、洪水調節を行ったダムの中には、洪水調節容量を使い切る見込みとなり、ダムへの流入量と同程度のダム流下量(放流量)とする異常洪水時防災操作(図1④参照)に移行した地点もあり、施設規模を上回る洪水発生の常態化がみられます。
このような水害の激甚化等を踏まえ、ダムによる洪水調節機能の早期の強化に向け、関係行政機関の緊密な連携の下、総合的な検討を行うため、「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」が令和元年11月に設置されました。検討会議では、緊急時において既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用できるよう、速やかに必要な措置を講じることとし、「既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本方針」が定められました。ここでは、早急に検討が必要な事項として以下の5つの施策が挙げられています。
このうち、(3)に関しては、国土交通省所管ダム及び河川法第26条の許可を受けて設置された利水ダムを対象に、事前放流(図2参照)を実施するにあたっての基本的事項をとりまとめた「事前放流ガイドライン」が令和2年4月に策定されました。事前放流の実施判断は3日前から行うことを基本として、ダム上流の予測降雨量がダムごとに定めた基準降雨量以上であるときに、予測総降雨量をもとに設定された事前放流の量(貯水低下量)を満たすよう行われます(図3参照)。
事前放流では発電や水道などで使用する利水容量の一部を放流して貯水位を低下させるため、事前放流後に水位が回復しなかった場合の対応が課題になります。ガイドラインでは、国土交通省及び水資源機構が管理するダム及び河川法第26 条の許可を受けて1級水系に設置された利水ダムを対象に損失補填制度を充てることができるものとし、発電については「事前放流に使用した利水容量が従前と同等に回復しないことに起因して生じる電力の減少に対する火力発電所の焚き増し等の代替発電費用の増額分とする。」としています。
【参考】