新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-

合成燃料について

最近「合成燃料」という言葉を聞く機会があった。懐かしい言葉だと思って聞いてみると、2050年のカーボンニュートラルを目指すグリーン成長戦略にも出ているとのこと。自分の知っているものとは違うような気がして、調べてみた。

まず、自分の記憶に整合したものとして、2008年7月にエネルギー経済研究所の研究者が発表した「合成燃料の現状と今後の動向について」という論文があった。サマリーの冒頭に「石炭・天然ガス・バイオマスなど、炭化水素を起源とするものの、そのまま利用するには制約があるため、ガス化(分解)・合成を行い、新たな炭化水素(常温常圧で液体)を合成する、いわゆる「合成燃料」」と書かれていて、やはり天然ガスから液体燃料を作る(GTL Gas to Liquids)とか、石炭から液体燃料を作る(CTL Coal to Liquids)とかのことであるとわかる。そして、中東を中心としたGTLプロジェクトは天然ガス価格や建設コストの高騰により一部を除き計画が中止されており、他方で中国のCTLプロジェクト等は進んでいると報告されている。バイオマス由来の液体燃料があるにしても、それでは2兆円のグリーンイノベーション基金を使って行われるグリーン成長戦略に登場するのは難しそうである。

次に見つけたのが、経済産業省の合成燃料研究会が2021年4月に発表した「中間とりまとめ」である。こちらも合成燃料の定義から書き出している。「合成燃料とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料である。」と書かれており、さらに注釈がつけられていて、その注釈を要約すると「これまでは上記(エネルギー経済研究所の論文)のような定義であった。CO2を炭素資源とする合成燃料というのは今までにない定義である。」と説明している。そして合成燃料は大きく気体合成燃料と液体合成燃料に分けられるが、この研究会では主に後者の液体合成燃料について検討するとしている(なお、気体合成燃料については「メタネーション」として別の場で検討されているが、基本的な考え方は同じである)。

「中間とりまとめ」を簡単に要約すると、次のとおりである。

「液体合成燃料はエネルギー密度が高いという特色があり、電気や水素エネルギーでは代替することが困難な用途がある。特に輸送部門では航空機や船舶など大型のものになればなるほど液体合成燃料のニーズは高く、当面はバイオマス由来のバイオ燃料で対応するにしてもバイオマス資源の制約から供給量にはおのずと限界がある。その点、CO2とH2の合成なら工業的に生産できるので大量生産のポテンシャルは高い。また、液体合成燃料であれば既存の燃料インフラや内燃機関をそのまま利用できるので、導入が容易である。

他方で、合成燃料の生産をカーボンニュートラルのために行うという視点で見ると、原料となるCO2は原料用に新たに作られたものでは意味がなく、分離・回収技術によりリサイクルされたものでなければならないし、H2もCO2を排出しないプロセスによって作られたものでなければならない。そしてこれを合成するためのプロセスも効率的なものでなければならず、これらの諸課題についての研究開発の推進が必要である。」

一般に、CO2を排出せずにエネルギーを使う方法としては、①太陽光、風力等の自然エネルギーや原子力を使う、②発生するCO2を地中に閉じ込めて大気中に出ないようにする、③CO2を分離・回収して再利用するプロセスをつくるという3つが考えられ、本件は③のいわゆるカーボンリサイクル技術に該当すると考えられる。

合成燃料をめぐっては、海外でも数多くのプロジェクトが進められているが、国内でも2021年9月に東芝エネルギーシステムズ株式会社、出光興産等6社が環境省から4年計画でCO2とH2から持続可能な航空燃料(SAF)を作る実証事業を受託して、実施中であり、また、2022年4月にはENEOS株式会社がNEDOのグリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いた燃料製造事業技術開発プロジェクトに採択されたところである。ENEOSの計画では2022年度から2025年度で小規模プラント、2024年度から2028年度で大規模パイロットプラントの建設・運転を行うとされており、今後の進展が期待されるところである。

ちなみに古い定義での合成燃料開発も行っていたENEOS株式会社の研究開発を紹介するホームページでは、過去のものと区別するためか、二酸化炭素から合成燃料を作るというテーマについては「再エネ合成燃料」と表記している。

ページトップへ