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合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会中間とりまとめ

令和5年5月16日に合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会で中間とりまとめが行われた。とはいえ昨年9月に第1回協議会が開催された後、二つのWG(商用化推進WG、環境整備WG)が設置されたものの今回が第2回の協議会であり、中間とりまとめを行うというのはやや唐突な印象である。そこでその背景を含め調べてみた。

まず、今回の協議会の資料は、議事次第と構成員名簿を除くと資料3「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会中間とりまとめ(案)」、資料4「G7気候・エネルギー・環境大臣会合の結果(カーボンリサイクル部分)」、資料5「G7における大臣会合等の概要」であるが、そのうち最も注目すべきものは製造局自動車課作成の資料5である。資料5からは次のようなことがわかる。

今回の中間とりまとめに至ったきっかけはEUにおける自動車分野のCO2の削減策の検討であり、当初2035年以降EVとFCVのみ販売を認めるという方向であったところ、ドイツの頑張りにより合成燃料によって走行するのであれば内燃機関を使った車でもCO2排出100%減になりうるのではないかということになり、その方向で検討が進められることとなったということである。そしてこの動きに呼応して西村経済産業大臣は本年4月15、16日に札幌で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケの中にカーボンリサイクル燃料(カーボンニュートラル燃料)の利用もCO2の削減に有効であり、CO2の削減に向けては「多様な道筋」がありうることを盛り込んだということのようである。

こうした流れを受けての今回の中間とりまとめである。従来の合成燃料(e-fuel)のロードマップ(令和3年6月策定のグリーン成長戦略)においては、合成燃料の商業化の目標は「2040年までに」とされていたが、これでは上記のように2035年をターゲットとして検討が進められているEUの動きに整合しない。2035年までにはドイツでも日本でも合成燃料を使った車が走っているという計画である必要があり、したがって合成燃料の商用化の時期を2030年代前半とすべく検討することとしたものである(なお、我が国では2035年に電動車100%を目標としているが、ここでいう電動車にはHEV(ハイブリッド車)も含まれているため、従来のロードマップでも不整合というわけではない)。

経緯としては以上のようであるが、改めて考えてみるといろいろと難しい論点が出てくるようである。

まず、なんといっても製造コストの問題である。合成燃料(e-fuel)は、CO2と水素を合成して作られる人工的な燃料で、使用時にCO2が出ても新たにCO2を出したことにならないため、カーボンニュートラルを実現する燃料ということになる。加えて、既存の内燃機関や燃料インフラが活用できること、化石燃料と同等に高いエネルギー密度を有すること等使い勝手の良さが大きなメリットである。しかしながら、その製造コストを考えると、原料となる水素の製造コストだけでも大きな課題である上に、CO2を集めるコスト、さらにはそれらを合成するコストまで加わるので、とても大変である。従来のロードマップ資料でも、商用化については2040年までにとなっているが、他方で2030年までに実用化となっている。つまり技術的には実証も含めて2030年までにはできるとされているところである。そのうえで商用化がそこから10年先であるのは主にコストの問題ということになる。このギャップを乗り越えるためのさらにもう一段の施策の検討が必要である。

もう一つの大きなテーマが合成燃料(e-fuel)についての国際的な認知度の向上とその環境価値の取り扱いについてのコンセンサスの形成である。世界に向けて情報を発信するとともに政策対話等を進め、大きな流れを作っていく必要がある。

そして最後に付け加えれば、G7のコミュニケでも取り入れられている「多様な道筋」「様々な行動」あるいは西村大臣の言う「技術的中立性」といった指摘は正しいことであり、様々な選択肢を残しながら最善の解を求めていく姿勢(最近のニュースによればトヨタ自動車は内燃機関を使った水素自動車の開発もしているとのこと)は尊いものではあるが、最終的に取られなかった選択肢のコストはだれが負担するのか、また始めから一つの選択肢で挑戦してくる事業者に太刀打ちできるのか等いろいろと考えさせられるところである。

【参考資料】

  • ・令和5年5月16日合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会資料3、4、5
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