新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-

国土交通省のカーボンニュートラルを目指した取り組み―鉄道架線を活用した再エネ送電―

国土交通省では2050 年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けて、鉄道分野におけるCO2排出削減の取組をこれまで以上に加速化させるため、目標値の設定やロードマップを含む「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿」をとりまとめ、公表した(R5.5.26公表)

なお、「とりまとめ」において特に注目する施策として、「架線を活用した再生可能エネルギーの送電」が述べられている。

【鉄道網の送電網化】

  • 架線を活用した再生可能エネルギーの送電(マイクログリッド化)
    走行のための電力を、パンタグラフを介して車両に送る設備である架線を活用して、沿線地域で発電した再生可能エネルギーを需要地に送電することが考えられる。
    系統電力と比較して送電電圧が低く長距離になるほど電圧降下への対策が必要となるといった様々な課題の解決が図られた場合には、架線を活用した沿線地域のマイクログリッドを構築し、地域活性化や地域脱炭素に貢献することができる可能性がある。
  • 電力系統整備における鉄道網の活用
    上記に加え、全国規模の電力系統整備に際しても、再生可能エネルギーの新たな発電所から電力系統へ接続する送電線を線路用地に設置するなど鉄道アセットの一部を活用できる可能性がある。

ここでは、「架線を活用した再生可能エネルギーの送電」に関して、鉄道路の状況や実現に際しての主な課題等について、最新の技術トレンドを発信しているサイトで動画をアップ(ERESTAGE LAB)しているのでその概要について紹介する。

  • (1)鉄道路の状況
     国内の鉄道路は、総延長約2万4000kmであり、現状の送電線(地内基幹系統20,800km、地域間連系線900km)よりも長い距離となっている。但し、鉄道路の電化区間は6割超の約1万5000km程度であり、車両上部のパンタグラフで電気を取り込みモーターを動かす仕組みである。但し、都市部では並走している路線も多くあり単純には比較できないと思われる。
  • (2)交流電化と直流電化
     鉄道の電化方式は、交流電化と直流電化があり、歴史の古い大都市圏では直流電化を主に採用しており、地方では交流電化が採用されている。それぞれの方式で特徴があるが、交流電化の路線を走行できる電車は限定されており、現在、交流電化を直流電化に見直す方向で進んでいる。従って、鉄道架線送電においても直流電化を前提とした構築が必要と思われる。
    (なお、交流電化であれば配電網と直結できるのかというと、鉄道では単相交流を使用して おり、送電網の三相交流と直結できるわけではない)
  • (3)変電所の増設について
     直流電化(600V、750V、1500V)の路線とした場合は、電圧が配電線(6600V)より低いため、変電所の増設(数キロメータごとに)や変換装置などの設備投資が必要とされる。
     なお、必要な設備投資については、国土交通省が負担するとしている。
    (また、「とりまとめ」では、既設の架線を活用するだけでなく、送電事業用の送電線を線路用地に設置するなどについても検討している)
  • (4)需要先への送電について
     需要先が変電所の近くにない場合(ほとんどの場合近くにないのでは)、電柱を借りるか、自営線を自前で設置するかの対策が必要となる。ある程度の距離があれば、鉄道架線を活用するのではなく、直接電力会社の自己託送を利用した方がコストメリットがある場合もあるものと想定される。
  • (5)架線の保守作業
     架線は保守作業が必要であり、送電線とは異なる特徴と言える。摩擦による劣化で定期交換が必要となり、その間は送電線としての機能は失われることとなる。
  • (6)清水静岡レイルグリッド構想
    新静岡駅と新清水駅を結ぶ架線約11kmの直流電化路線(600V)を利用して実証実験を行う予定となっている。(現状は、構想の実現および事業化のための調査を実施している)
    清水静岡レイルグリッド構想

これだけの手間をかけて鉄道架線送電を進める理由としては、不採算路線の維持にあるものと思われる。

再エネの有望地である北海道や九州の在来線は、不採算に陥ってる路線も多い。こうした架線を活用したり、電力会社が新たな送電線を設置することによって、鉄道会社の新たな収入源になれば路線維持の期待も高まるものと思える。

以上の通り、既設の架線を利用するには多くの課題の解決が必要とされる。送電網の整備費用は、広域機関の試算で2050年までに6兆~7兆円とされている。鉄道架線の活用が整備費用の抑制につながることを期待したい。

ページトップへ