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盛土規正法について

令和3年7月3日に熱海市で大雨によって盛土が崩落し、土石流により甚大な被害が発生したことを受けて、「危険な盛土」をめぐる議論が一気に進み、令和4年5月20日に「宅地造成等規制法の一部を改正する法律」が成立し、同年5月27日に公布された。改正後の法律名は「宅地造成及び特定盛土等規制法」で、通称が「盛土規正法」である。熱海市の災害をきっかけとして考えれば、1年もたたずに対策が法律の形になったことは大変に迅速な対応ともいえるが、別の見方をすれば近年の自然災害の激甚化、頻発化の中で識者の間では、具体的な地点まではわからないまでも、どこかで「危険な盛土」が引き起こすであろう事態と対策の必要性についてはある程度認識されていたものと思われるところである。以下盛土規正法について解説する。

  • (1)盛土規正法の前身である宅地造成等規制法をはじめ森林法や農地法等により、切土や盛土等による土地の形状の変更を含む開発行為については、すでに規制が行われていたところであるが、宅地の安全確保、森林機能の確保、農地の保全といったそれぞれの法律の目的から生じる制約により、盛土等の規制が必ずしも十分でないエリアが存在していた。そうした部分について一部の地方自治体では条例による規制を行っていたが、目的や内容がそれぞれの条例の制定の経緯の違い等から異なっており、全国知事会等からは法制化による全国一律の基準・規制を求める要望もあったところ。
  • (2)そのため、今回、土地の用途(宅地、森林、農地等)にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する盛土規正法が作られた。この法律では、国土交通大臣及び農林水産大臣が盛土に伴う災害の防止に関する基本方針を定め、その方針の下、都道府県知事等が規制を実施することにしている。
  • (3)盛土規正法の最大のポイントは、宅地、農地、森林といった土地の用途とは関係なく、土地を造成するために行われる盛土・切土、さらには土捨て行為や一時的な堆積が人家等に被害を及ぼすことを防ぐことを目的に、盛土等がそうした被害を及ぼしうる地域をもれなく規制区域として指定するところにある。これにより「隙間のない規制」が実現される。規制区域の指定に当たっては、市町村長が関与できる仕組みを導入し、加えて都道府県等は定期的に基礎調査を行い、指定に漏れが生じないようすることとしている。
  • (4)指定された区域で盛土等を行おうとする場合には、基本的に都道府県知事等への届け出が必要であり、さらに一定規模以上の場合には許可が必要になる。許可を得るためには、災害防止のために定められた安全基準をクリアすることに加えて、土地所有者等全員の同意及び周辺住民への事前周知が要件として加えられている。さらに許可を受けた後も許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、施工状況の定時報告、中間検査、完了検査を実施することとされている。
  • (5)さらに盛土規制法では工事の適正な施工の確保に加えて、施工後の盛土等が行われた土地について土地所有者等が常時安全な状態に維持する責務を有することを明確化しており、災害を防止するために必要な場合は土地所有者等だけでなく原因行為者にも是正措置等を命ずることができることとしている。これにより盛土を行った造成主、工事施工者、過去の土地所有者等も命令の対象になる。
  • (6)そしてこれらの規制を実効あらしめるため条例では設けることができない厳しいレベルの罰則を設け、法人重科も措置している。この法律は公布後1年以内に施行されることになっている。

内閣府の防災担当部署に設けられた「盛土による災害の防止に関する検討会」が令和3年12月24日にこの法律のたたき台となる提言を取りまとめている。上述したように盛土規制法は土地の用途は問わない点にポイントがあるが、提言の目次を見るとなぜか最後に「太陽光発電に係る対応」というのが特記されており、再エネ特措法、温対法、電気事業法の適切な執行について記述している。現在の地域の声が凝縮されているように思われ、再エネ関係者は十分注意を払う必要がある。

【参照資料】

  • ・盛土による災害の防止に関する検討会 提言 令和3年12月24日
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