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日本水素ステーションネットワーク合同会社について

2014年12月にトヨタ自動車が燃料電池自動車「MIRAI」の販売を開始し、燃料電池自動車(FCV)の普及が始まった。FCVは水素を燃料として走るため、普及に当たっては、燃料供給のための水素ステーションの整備が不可欠となる。そのため、資源エネルギー庁では2013年度から水素ステーション整備のための補助金を用意してステーションの整備を開始し、第1号の水素ステーションはFCVの販売開始に先立つ2014年7月に開所されている。一見順調に見える滑り出しではあったが、ここから「鶏と卵」の押し問答が始まることとなる。「MIRAI」はセダンタイプの車であり、水素を燃料とし、CO2を排出しないことから、環境対応をアピールし普及啓発活動の目玉にしたい県や市あるいは企業からの購入希望は多く寄せられたが、他方で、大変高価なものであることから通常の業務用に利用する車両としての購入は限られ、需要は広域に分散して存在するもののまとまったものにはならなかったため、多くの購入希望者に対しては「まだ水素ステーションが整備されていないのでお売りできない」ことになり、他方、水素ステーションを整備し来客を待つ者から見れば、1日に1台来るかどうかということで、建設費用を回収するどころか日々の運営費用さえ出ない状況となった。そのため水素ステーションの追加設置が進まず、またFCVの販売も進まないということになった。

かかる事態を打開するため、いくつかの対策が国や自治体側、あるいは民間側から出された。トヨタ自動車をはじめとした自動車メーカー、石油・ガス等の水素ステーションの整備・運営を行うインフラ事業者及び金融投資家等11社による民間側からの対策として2018年2月に設立されたのが表記の日本水素ステーションネットワーク合同会社(Japan H2 Mobility 略称JHyM)である。

JHyMの狙いを整理すると次のとおりと思料される。

  • イ)水素ステーションの整備を地方に広げていくためにはそれぞれの地域の企業の協力が必要であるが、地域の企業による整備に任せるだけでは「点」での整備にとどまってしまう恐れがある。FCVが走っていくところには「点」ではなく「線」として水素ステーションが整備されている必要があり、さらにそれを「面」として広げていくには、ネットワーク全体を俯瞰しながら戦略的に構築していく体制が必要。併せて休業日や点検整備のための休止期間の調整なども必要。
  • ロ)国からの補助金があるとはいえ、地方の企業だけでは整備費用の捻出は大変な負担であり、また運営に係る費用の負担も大変。そこを軽減してやれば、整備も進んでいく。
  • ハ)また、新規の参入者の整備、運営に係るノウハウ・経験の不足を補うことも重要。それによりコストの引き下げができる。

以上の狙いに沿って、JHyMでは次のような手順で事業を行っている。

  • ①JHyMとして水素ステーションネットワークの整備計画を策定し、それに沿ったインフラ事業者のステーション整備計画を承認。
  • ②承認された整備計画についてインフラ事業者とJHyMが共同して補助金申請。
    インフラ事業者は自己負担分の整備資金をJHyMに出資。その出資金と金融投資家からの出資金及び補助金を使って、整備をインフラ事業者が行ったうえで設備をJHyMが所有。
  • ③インフラ事業者がそれぞれのブランドで運営を行うが、JHyMからの業務委託を受けて運営管理等についての情報をJHyMに提供することで運営費用の負担を軽減。(なお、運営管理費についてはこれとは別に国からの補助金として「燃料電池自動車等新規需要創出活動補助金」がある。)

この方法により、JHyMの第1期(2018年度~2022年度)の水素ステーションネットワークの整備計画はおおむね達成される見通しであり、JHyMへの出資企業数は当初の11社から30社にまで拡大し、水素ステーションの数も2022年9月時点で全国で161か所となっている。

引き続きJHyMの活動は第2期の5年計画へと続いていくと思われるが、他方で、世界的に燃料電池車の普及の重点が乗用車からバスやトラック等の商用車へとシフトしていく流れになってきており、我が国でも東京オリンピックを契機にして燃料電池バスが実用化され、また燃料電池トラックについても本年度から実証走行が始まる予定になっている。そうした動きを踏まえて、この9月8日には経済産業省で「モビリティ水素官民協議会」が立ち上げられ、モビリティ分野での水素燃料電池車の普及の将来像についての検討が始められており、それに伴って水素ステーションネットワークの整備方針も見直されていくのかもしれない。

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