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再生可能エネルギーの導入可能量の拡大を目指した大型蓄電技術③
-NAS電池を活用した豊前での取組みについて-

2021年4月22日開催の地球温暖化対策推進本部にて、「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46パーセント削減することを目指します。さらに、50パーセントの高みに向けて、挑戦を続けてまいります。」と発表された。エネルギー政策において、再生可能性エネルギーの拡大は重要な課題です。また、再生可能エネルギーの導入可能量の拡大を実施する場合、系統安定化のためにも大型蓄電池の利活用は不可欠要素と考えられています。

前々回レドックスフロー電池を用いて、短周期/長周期変動抑制制御及び下げ代不足対策運転等の技術開発を推進した南早来の事例紹介、前回リチウムイオン電池を用いた、周波数制御効果の評価及び再生可能エネルギー導入拡大効果の定量的評価等を推進した西仙台での事例を紹介したが、今回はNAS電池を用いて、需給バランスの改善、系統電圧制御、周波数調整、エネルギーロスの最小化について実証・推進した豊前での事例を紹介します。

内容は、補助事業「大型蓄電システムによる需給バランス改善実証事業」を活用した実証事業であり、事業を進めたのは、九州電力株式会社で大型蓄電池としてはNAS電池(5 万kW、30 万kWh 相当)を採用している。

成果項目に記載した内容以外にも、総合評価として以下内容を検討したとのことである。

  • (1)充放電パターンの選定
  • (2)経済性の評価
  • (3)揚水機との比較
  • (4)CO2削減量の試算
  • (5)再エネ導入量拡大に向けた蓄電システムへの提言
    ①低価格化 ②蓄電システムの高効率化 ③蓄電システムの長寿命化

さらに、現在電力ネットワークの次世代化として検討が進められている、需給バランス制約(需給制約)による出力制御、および送電容量制約(系統制約)による出力制御に対しても、今回の事業成果が活用されるものと考えられている。また、NAS電池を製造している日本ガイシは令和4年1月6日、中部電力ミライズ(愛知県名古屋市)の要請により、名古屋・知多(愛知県半田市)・小牧(愛知県小牧市)の各事業所とGKセラミックデバイス・多治見工場に設置しているNAS電池を活用し、合計2万1,000kWhの需要を抑制し、需給ひっ迫の改善に貢献したとの事例報告があった。

大型蓄電システム

【内容】
豊前蓄電池変電所に大型蓄電システムを設置し、揚水発電と同様の電力貯蔵機能を活用して以下の検証を実施

  • ①需給バランスの改善
  • ②系統電圧制御
  • ③周波数調整
  • ④エネルギーロスの最小化
大型蓄電システム

【概要】

  • (1)事業者名  九州電力株式会社
  • (2)事業期間  平成27年度~平成28年度
  • (3)設置場所  九州電力株式会社 豊前蓄電池変電所〔福岡県豊前市〕
  • (4)実証設備  NAS電池 出力:5万kW、容量:30万kWh(設置面積:約14,000㎡程度)

【成果】

  • ①需給バランスの改善(再エネ出力制御の回避)
    ・1日あたり最大30万kWh相当の再エネの出力制御を回避するための充放電運転実施
    ・蓄電システム導入効果の確認としては、太陽光の接続可能量(817万kW)を超えて200万kW追加接続された場合、出力制御率を1%程度軽減可能をシミュレーションで確認
  • ②系統電圧制御
    ・無効電力出力(最大25MVar)を活用した電力用コンデンサや分路リアクトルの代替としての活用可能性確認
    ・指令値のきめ細かく制御することとランプ状の滑らかな電圧制御の実証
    ・蓄電システムの電圧制御効果に関する検討手法の妥当性確認
  • ③周波数調整
    ・信号の伝送遅れを含め,5秒程度で追従する周波数調整への寄与確認
    ・蓄電システムの容量が拡大された場合の大型火力機が分担している領域を含めた対応可能性の見通し
  • ④エネルギーロスの最少化
    ・総合効率(所内負荷を含めた全体効率)72%程度確保、充放電効率の向上
    ・低温停止期間以外は、継続して充放電サイクルを行うことでエネルギー効率の向上
実施場所の外観
実施場所の外観
出典:大型蓄電システム実証実験に係る成果報告会
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