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『図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ〜くわかる本[第2版]』(書評)

著者:木舟 辰平(1976年生)
発行:(株)秀和システム
発行日:2020年7月25日

本書の初版は昨年(2019年3月)と1年半前ですが、その間の電力システムを巡る動きは急なものがありました。私自身も数多くの政府審議会、委員会資料をフォローし、新聞、WEB、週刊誌、業界紙などのニュース情報を見ることに終始しました。新エネルギーに対する技術知識、発送電などの電気に対する基本的な知識に加え、電力自由化に伴って導入される数多くの新市場形成をする経済学の知識、そして、分散化に伴うVPP導入、その背景となるブロックチェーンなどの新しいIT技術、さらには地域自立型エネルギー活用によう地域活性化などその広がりは多岐を極めます。その中で本書は入門書レベルですが、電力システム改革全般の最新情報を網羅した数少ない著作です。

「はじめに(改訂にあたって)」に著者は昨年9月の千葉大停電、それを踏まえた電気事業法の本年6月改正、FIT法改正などの内容を中心に最新動向の解説をしたと述べています。著者の問題意識は改革の複雑化を指摘しています。大規模発電から地域分散への動き、電力事業に関わる事業者増加による複雑化などを例示しています。複雑化の一方、最近のコロナ禍によるオンラインコミュニケーションの増加による電力の安定供給の重要性もあり、電力システムに関しての動向は誰もが知るべきことであると指摘しています。

本書は以下の10章構成。

  • 第1章 電力システムの基本
  • 第2章 水力・火力
  • 第3章 原子力
  • 第4章 送配電
  • 第5章 再生可能エネルギー
  • 第6章 分散型システム
  • 第7章 電力自由化
  • 第8章 電気料金
  • 第9章 電力市場
  • 第10章 次世代の電力システム

特に、7章から9章では電力システム改革の重要な側面である自由化による電気料金の変遷、そして卸電力、容量、需給調整、非化石価値取引などの各市場導入という制度面の改革を解説しています。また、各章の末尾にコラムが掲載、著者の最新の電力システムを巡る動きに関する所感が興味深いところです。

例えば、『太陽光と「貧乏父さん」の不幸な関係』というタイトルのコラムがあります。高度成長の帰結が一億総中流化であり、それの象徴であるエネルギーが大型発電所の原子力であったが、太陽光は格差の拡大が進み、社会の閉塞感を象徴するエネルギーかもしれませんと言います。太陽光発電は本質的に不平等性の上に成り立っているとし、住宅用太陽光設備を設置できるのは「金持ち父さん」。余剰電力を売電して不労所得を享受できるがその原資は電気の消費者が平等に負担。マイホームを持てない「貧乏父さん」も負担は強いられるとしています。

今、まさに進行している電力改革の行先がどこか、本書を読み基礎知識を蓄えて、考察したいものです。

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