キャビテーション(cavitation)とは、液体の流れの中で圧力差により短時間に気泡(cavity)の発生と消滅がおきる物理現象で、日本では「空洞現象」とも呼ばれている。
水力発電において、キャビテーションは様々な部位で発生する可能性があるが、特に問題となるのは水車であり、以下に示すように、水車の振動/騒音の増大、水車効率の低下、水車ランナーに気泡が衝突/潰れる際に発生するエロ―ジョン(壊食)によりランナーをいためることもある。
水力発電において、キャビテーションをできるだけ発生させないための対策のひとつとして、定格出力より低い出力で運転する「部分負荷運転を避ける」ことが挙げられるが、小水力発電では流れ込み式が多く、河川流量に出力が追従するため、部分負荷運転を避けることが難しいケースが多い。従って小水力発電では水量の変化がある前提でキャビテーション対策を考える必要がある。
水車でのキャビテーション発生のメカニズムは次の通りである。即ち、水の圧力は流速が速くなると下がり、遅くなると上がる傾向にある。水圧鉄管や水車の入口付近は流速が速いため水圧は下がるが、ランナー付近ではランナーの羽等に阻まれて流速は遅くなり水圧は上がる。水の沸点は圧力が下がると下がるため、水圧鉄管や水車入り口では水泡ができやすい傾向があり、できた水泡はランナー付近の高い圧力により潰れる。水泡が潰れる際に圧力波が発生し、それがランナーの振動・騒音の発生、延いてはエロ―ジョンの発生につながる。
また、キャビテーションによる気泡が多くなると、ランナーが所謂「空回り」のような状態となり、水車効率を低下させる要因になる。
水力発電でキャビテーションを防ぐ方法として、
があげられるが、④は上記のように小水力発電では難しい場合が多いため、部分負荷運転を行う地点では、キャビテーションが発生しにくい水車を選ぶことが必要である。
小水力発電は30年以上の運転を期待する設備であることから、水車の設計にあたっては、キャビテーションを発生させないことは考慮すべき重要な事項である。
余談となるが、キャビテーションは身近に起きている現象であり、例えば、水道の蛇口に取り付けた長いホースの途中の曲がったところで出る気泡や、超音波洗浄機では超音波でキャビテーションを発生させて汚れを落としている。また相模湾以南に生息するモンハナシャコは水中で拳銃に匹敵するスピードのパンチを繰り出すことができて貝などの獲物を捕らえるが、そのパンチを繰り出す際に水中での圧力差でキャビテーションを発生させる程であり、YouTubeで見ることができる。
【参照文献】
※本文は約1200文字です