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水素・アンモニア政策の展開について

令和5年1月4日に総合エネルギー調査会の水素・アンモニア政策小委員会が今後の政策の展開についての中間整理を行ったので、その概要について解説する。

まず、始めに言い訳めいたことで恐縮であるが、筆者は令和4年7月に本解説コーナーで「水素社会への新たなアプローチ」という表題で本件小委員会の活動について報告している。その際の解説では、令和4年4月27日の第3回会合での議論が「中間整理」で、その後は「詳細設計」に入ると理解して解説したが、その後さらに8か月4回の小委員会での議論を経て「中間整理」に至ったものである。目を通してみても確かに「詳細設計」というには詰め切れていない課題が多く、「中間整理」といったほうが良さそうである(さらに言えばそもそも本件は議論を尽くせば詳細設計に至ることができるというタイプのテーマかとも思われる)。

本件に係る議論を進めるうえでの困難については、二つの点が指摘できる。

  • ① 技術開発段階におけるプレイヤーとそれを使って事業を行う段階でのプレイヤーは必ずしも一致しないということである。特に新しく始める事業の場合には異なることが多いと考えられる。したがって、技術開発を進め、さらに技術の実証ができても、さて実際に使うのは誰ということになりがちである。グリーンイノベーション(GI)基金でいくら技術開発をやっても、それを使わなければならない状況が生じなければ使われない。それでは使わなければならないように規制すればということになるが、昔とは違い本邦企業といえどもその活動場所はこの国に限られない。
  • ② もう一つは、本件中間整理の中でも触れられているが、カーボンニュートラルに向けて行われている各種の補助金事業、上記のGI基金事業、さらには電力システム改革の中で行われている非化石価値市場や今後行われようとしている長期脱炭素電源オークション、また今国会に法案が提出される予定のGX移行債をはじめとしたGX実行会議関連の政策による事業(排出権取引を含む)の動向等との調整が必要であり、これらが同時並行的に進むなかでは、支援の内容やスケジュールを単独では決められないことが多い。

ということで多大な困難を背負いながらここまで来た中間整理の概要は以下の通り。

  • 1.強靭な大規模サプライチェーン構築に向けた支援制度
    • ① まずは水素・アンモニアの供給体制の構築であるが、将来的には自立した市場にゆだねることを前提に、当面エネルギー基本計画に定める2030年の導入目標の達成に向けてスピード感をもって対応する。将来への不透明感のある中で自らリスクを取って投資を行い、2030年ころまでには供給を開始する予定である者(ファーストムーバー)を優先して支援することとし、そこに焦点を当てて支援策を検討。
    • ② 支援の対象は、国内製造と海外での製造・海上輸送(輸送に際しメチルシクロヘキサン(MCH)等を利用する場合は輸送後の脱水素設備を含む)である。エネルギーの安全保障の面からは国内製造が望ましいが、それでは当面大量供給は見通せないので、海外製造・海上輸送も認めることとし、早く海外からの調達ルートを開くことにより、将来の安定供給とコスト低減に結びつける。下記2.との関係で荷揚げ、貯蔵施設等がどちらに含まれるか微妙であるが、基本的にはそれらについては2.で対象とするという整理のようである。
    • ③ 支援の方法としては、供給者を直接支援。需要側の購入費用を支援する方法もある(通常の補助金はこちらが多い)が、それでは供給側の不確実性が増し、また支援対象者数も増えてしまうので管理も大変(この制度は運営が難しいものになりそうで、役所の直営にならざるを得ないと思われる)。供給者を対象に、基準価格(コスト)と参照価格(既存燃料のパリティ価格)の値差を支援。支援対象期間は15年(状況に応じて20年)。
    • ④ 対象となる水素・アンモニアについては、原則クリーンを条件とする(CO2排出量の閾値については国際的にみて遜色のないものを求めていく(国際的には継続議論中))が、例外的に脱炭素化の見通しが説明できるならグレーでもよいこととする。
  • 2.効率的な水素・アンモニア供給インフラの整備支援制度
    • ① 2.の表題中に「供給」インフラとあるので1.との違いが一瞬わかりにくいが、水素・アンモニアの大規模な利用を行う拠点整備についての支援である。全国に散在する事業者が誰でも希望すれば水素・アンモニアを使えるようになるのが究極の姿であろうが、まずは効率性を重視し大規模な需要が生まれそうな利用拠点を重点的に整備していくということである。とりあえず、今後10年程度で大都市圏で3か所程度の大規模拠点、地方に分散して5か所程度の中規模拠点を整備することを目指している。
    • ② 支援の対象は、基本的に多数の事業者が利用できる貯蔵施設、パイプライン等の共用インフラを中心に支援することとし、個社の設備であっても他社も利用できる場合は対象とする。
    • ③ 拠点の選定については、政府が主体を担いつつ専門家会合の意見を反映させ、支援対象の選定と運営のモニタリングを行っていく。
  • 3.上記1.と2.の支援策については、実際の運営に当たってはうまく連携させることが必要。また、国土交通省において進められているカーボンニュートラルポートや製造業の燃料転換等のGX実行会議での検討事項等とも連携していく必要がある。

以上、水素・アンモニア小委員会の中間整理について簡単にまとめてみたが、いずれにしろまだ緒に就いたばかりであり、前途は多難である。ただ、事務局を務める方々にとって幸いなことに、令和5年度には資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部に現在事務局を担っている新エネルギーシステム課とは別に水素アンモニア政策課が設置されるとのことであり、役所側の体制の強化により本件がさらに実現に向けて力強く進むことが期待される。

【参考資料】

  • ・令和5年1月4日 水素政策小委員会/アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会 合同会議 中間整理
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