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水力発電とパリ協定

The changing role of hydropower

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が2023年2月13日付で公表した水力発電に関する提言書について解説します。

一言でいえば、パリ協定で定めた1.5度目標達成のためには水力発電について大幅な投資促進が必要だとしています。揚水発電を含む水力発電の設備容量(installed capacity)が2050年までに倍以上になる必要があり、そのためには、水力発電への年間投資額をおよそ5倍までアップする必要があると指摘しています。

キーメッセージを要約すると以下の1~10の通りです。

  1. 水力発電の開発が真に持続可能なものであることを証明するためには、厳格で透明性の高い持続可能性の基準を設ける必要がある。
  2. パリ協定で定められた気候目標を達成するために、水力発電(揚水発電を含む)の設備容量を2050年までに2倍以上にアップする必要がある。
  3. (目標達成には)水力発電への年間投資額を約5倍までアップする必要がある。
  4. 水力発電のポテンシャルの大半は発展途上国にあるため、開発リスクを克服できるよう投資環境の整備が必要である。
  5. 水力発電は調整力やアンシラリーサービスの提供という重要な価値を提供しているが、既存の電力市場では必ずしも(適切に)認識されていない。
  6. 規制の仕組みと電力市場は水力発電における投資と報酬の不整合を削減できるように配慮すべきである。
  7. 大半の水力発電設備は、太陽光・風力などが大量導入されていない数十年前の条件下で設計されている。
  8. 大半の水力発電設備は高経年化が進んでいるので、新技術を適用して設備を更新し運用を近代化して、(太陽光・風力などの大量導入時代の)電力システムに対応できるようにするべきだ。
  9. 水力発電は気象リスク(洪水や干ばつなど)の影響を受けやすいが、設備更新や新規開発プロジェクトにおいて最新の技術を適切に設計に反映させることより、レジリエンスを獲得することができる。
  10. 水力発電の政策立案者がとるべき行動
    • (1)水力発電事業者にとって魅力的なビジネス環境を整備する。
      • ・フレキシビリティとアンシラリーサービスを提供できる水力発電の価値を政策や市場設計に適切に反映させる。
      • ・電力市場・容量市場により幅広く水力発電事業者が参加できるように、市場の枠組みを設計する。
      • ・水力発電の設備更新や新規開発において、新技術の採用が進むよう、インセンティブの付与と財政的支援を行う。
      • ・水力発電の導入加速化に寄与するよう、インセンティブ付与と合理的な規制とを密接にうまく連携させる。
    • (2)しっかりしたフィージビリティスタディがなされ、厳格なサステナビリティ基準があることを前提としたうえで、銀行融資が可能でかつ持続可能なプロジェクトがうまく回るような仕組みを構築する。
    • (3)水力発電政策は、電力供給の視点からだけでなく、気候変動や水資源の貯蔵・管理にも配慮した長期的エネルギー政策の中で構想されるべきである。

【筆者コメント】
 同報告書は、先進国や発展途上国を含む世界全体の水力発電事情に関する総括的な考察ですが、日本の状況を考える場合にも、大いに役に立つ内容であると思われます。日本では、最近、太陽光・風力といった変動性再生可能エネルギー(VRE)の大量導入が急速に進んでいます。同報告書で水力発電の果たす調整力やアンシラリーサービスといった機能の重要性が強調されているのは興味深いです。さらに、調整力の観点から、揚水発電の重要性を強調している点は、日本の現在のエネルギー政策における議論と波長がよく合っています。規制のありかたや電力市場における価値の再評価、投資環境の整備についても、日本の長期脱炭素電源オークションなど最近の制度整備状況とよく符合している印象を受けました。

【参考文献】

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