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水素基本戦略の改定について

令和5年6月6日に再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議が開催され、新しい水素基本戦略が策定された。平成29年12月に最初の水素基本戦略が策定されて以来、5年半ぶりの改定である。

今回の改定については、同戦略の「第1章総論」でも指摘されているように、この5年間に起こった次の二つの大きな節目が契機となっている。

  • ①2020年10月の2050年カーボンニュートラル宣言
    当時の菅首相のイニシアチブによるものであるが、これを受けて改定された第6次エネルギー基本計画では、水素・アンモニアが2030年の電源構成の1パーセントを担うこととされた。第6次エネルギー基本計画については全体に無理が多いなかで策定されたため、逆に今から弱音を吐くわけにはいかないという雰囲気の中で、国として達成すべき義務のように扱われることとなっている。水素・アンモニアも電源構成のわずか1%であるがゆえに逆に必達の目標という印象がある。
  • ②2022年2月のロシアのウクライナ侵略
    ヨーロッパの国々は、カーボンニュートラルと言いながらも最後はロシアの天然ガスは「別枠」で利用できることにしようといったようなことも考えていた節があるところ、今回の侵略により、少なくとも当分はロシアの天然ガスへの依存はできるだけしないことにせざるを得なくなったことから代替策として水素が脚光を浴びることとなり、一気に我が国を上回るような速さで水素供給国の開拓、水素関連機器の開発等が行われることとなった。従来の水素基本戦略においては、我が国が先行して開発してきた燃料電池等の技術開発と量産化によって、我が国主導の下でおのずと水素利用の道は開けるといった展開を考えていたところであるが、世界はそれ以上の速さで進んでいる。

次に、新しい水素基本戦略の中身であるが、基本的にはこの1年総合資源エネルギー調査会の水素・アンモニア小委員会で検討してきた内容(2023年1月中間とりまとめ)である大規模かつ強靭なサプライチェーンの構築と需要の創出に資する供給拠点の整備(大規模拠点3か所程度、中規模拠点5か所程度)(水素基本戦略の第3章)をベースに、この3月から5回開催された水素・燃料電池戦略協議会における検討を踏まえた水素産業戦略(同第4章)と昨年の8月以来6回開催された水素保安戦略の策定に係る検討会で取りまとめられた水素保安戦略(同第5章)を加えたものとなっている。そして、新しい水素基本戦略にはいくつかの新規項目も盛り込まれている。その主なものは次のとおりである。

  • ①2040年の水素等の導入目標の設定
    現状2030年に最大300万トン/年、2050年に2000万トン/年程度との導入目標に、新たに2040年1200万トン/年程度を加える。
  • ②水素・アンモニア製造における低炭素目標の設定
    低炭素水素をきちんと定義し、その導入を推進していく。現状の技術レベルから見て達成不可能ではない目標として、まずは1kgの水素製造に際してのCO2排出量が3,4㎏-CO2e以下のものを低炭素水素とする。
  • ③2030年の世界の水電解装置の1割に当たる15GW程度を日本企業関連で導入し、水素製造基盤の確立を図る。

関係者によるこの1年間の検討の集大成としての水素基本戦略の改定であり、まずはご苦労様というところであるが、改めて見てみると気になる点がある。

第3章の冒頭部分、「3-1. 安定的、安価かつ低炭素な水素・アンモニアの供給について(1)安定的な供給(Energy Security)」の書き出しは「安価な水素、アンモニアを長期的かつ安定的に供給するためには、水素を利活用する需要の創出が欠かせない。」となっており、それに続いて水素の導入目標についての記述が行われている。しかし、カーボンニュートラルが世界の流れとなっている中で、クリーンな水素が供給されれば使用したいという需要家は既に多数存在するように思われる。問題は誰によってどれほどの量が安定的に供給されるのかという点にあり、その点について具体的な内容が盛り込まれればよかったと思われるところである。

【参考資料】

  • ・令和5年6月6日再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議 水素基本戦略
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