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地熱探査技術の物理探査法

物理探査法は、地表から人工的な振動を与えたり、電流・磁場などを印加したりして地下に信号を送り、地中を伝播した後に地表に帰ってくる信号を計測することによって地層の物性構造を調べる探査法です。また、自然に発生する地震、電磁場などを信号源として用いたり、自然に存在する重力(引力)などを計測したりする場合もあります。物性には、弾性波速度、密度、比抵抗(電気伝導度)、磁化率、熱伝導率などがあり、それらの分布や時間変化を調べることによって、地質構造や断層・鉱床などの異常構造を求めたり、地下水や汚染物質の分布の時間変化を調べたりします。物理探査法は、石油・地熱・金属鉱床などの資源探査、土木分野における地盤評価、放射性廃棄物地層処分やCO₂地中貯留などにおける岩盤評価、土壌・地下水の環境評価、断層・火山の地質構造調査、地殻深部や地球内部構造を対象とする学術研究などにおいて、幅広く用いられています。物理探査法の技術的な詳細は、例えば、物理探査学会(2008, 2013)等に紹介されています。

地熱資源探査に用いられている物理探査の主なものは、電気・電磁探査、重力探査、磁気探査、地温探査、微小地震探査、弾性波探査などです(図1)。

地熱資源探査に主に用いられる物理探査法
図1:地熱資源探査に主に用いられる物理探査法

電気・電磁探査は地下の比抵抗構造などを調べます。地熱探査の場合、これらは高温部の存在や粘土鉱物の分布を調べるために効果的です。また、地下水の流れによって生じる電気分極による異常な電位分布を計測し、熱水の流動を調べる自然電位法も地熱探査に用いられます。

重力探査は岩石の密度分布を調べます。岩石の密度は、堆積岩では古い地層で圧密を受けたものほど大きく、また、地下で固結した緻密な火成岩は高密度です。

磁気探査は岩石の磁化率を調べます。火山から噴出した岩石には磁鉄鉱などの磁性鉱物が含まれており、一般に溶岩には磁性があります。しかし、地熱活動で磁性鉱物が分解されると磁性を失います。それらの特徴から地熱活動の活発度が推定できます。

地表の温度を航空機などからの熱映像計測によって求めたり、地下浅部にプローブを挿入して地温分布やその時間変動を調べたりすることによって、噴気活動や熱放出の活発な場所を抽出することができ、地温探査は初期の概査段階で用いられます。

微小地震探査は、貯留層内の圧力が変化したときに発生する小さな地震を観測することにより、熱水流動が活発な領域を調べる手法です。この探査法は、坑井を掘削し、実際に熱水を噴出させたときに、貯留層の状況を把握するために有効です。また、発電を開始し、熱水を継続的に生産し、また、余った熱水を地下に還元している状態で、貯留層の状況を調べるときに、最も有効な物理探査手法です。

弾性波探査は、地層の境界で弾性波振動が反射して地表に戻ってくる状況を計測し、地層境界を反射面として捉えます。地層境界が滑らかな平面に近い堆積岩地域では非常に有効であり、石油探査では不可欠な探査法となっています。しかし、日本の地熱地域は大部分が火山噴出物(溶岩、火山灰など)で構成されており、明瞭な反射面となる地層境界が少ない状況です。そのため、弾性波探査の適用は限られています。

地熱開発における探査のステップを考えると、一般に、重力探査、磁気探査、地温調査、電気・電磁探査、弾性波探査、微小地震探査の順に、広域から詳細域への探査対象エリアが小さくなっていきます。

【参考文献】

  • ・新エネルギー財団(2019):「令和元年度 地熱開発技術者研修会テキスト」
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