温泉事業者にとって、地熱開発による温泉への影響可能性は重要な問題であり、科学的根拠もとに、丁寧に説明していく必要があります。地熱探査・開発の段階で地下に関する情報が増えるに従って、影響の可能性も次第に明らかになっていくはずですが、開発前の段階である程度推定する方法がありますので、それを紹介します。
地熱貯留層と温泉帯水層との水理的・熱的な関係は、図1に示される5つのタイプがあり、温泉の泉質を調べることにより、5つのうちのどれに当たるかをおおよそ判別することができます(日本地熱学会, 2010)。従って、深部にある地熱貯留層の探査・調査を行わずとも、地熱開発による温泉影響可能性をある程度予測することができます。地熱開発による温泉への影響可能性が最も高いのが左端で、右ほど可能性が低くなります。可能性だけではなく、影響の仕方もタイプによって異なるので、適切な温泉モニタリングを選ぶ必要があります(表1)。
同一熱水型と熱水滲出型の温泉は、深部の地熱貯留層からNaCl型の熱水が供給されているため、陰イオン成分としてCl-が卓越しており、温度が高い状態です。ただし、同一熱水型のほうが溶存成分濃度が高く、さらに高温です。蒸気加熱型は、深部の地熱貯留層からSO4-タイプのガスを含む蒸気が供給されているのが特徴で、高温です。伝導加熱型と独立型は地熱貯留層とは水理的つながりが無く、溶存成分濃度が低く低温です。
【参考文献】