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地熱井の傾斜掘り概要

図1 傾斜掘概念図

傾斜掘りは、地表のロケーションから予め定められた計画軌跡に沿って方位と傾斜角をコントロールしながら、指示された偏距とサイズを持った地下のターゲット(目的位置)内に掘削する技術です。既存の坑井の途中から別のターゲットに向かって、掘削をおこなうサイドトラッキング(枝掘)も同じ技術です。地熱開発では、急峻な山岳地形による敷地造成の制約や坑井基地の集約化等の理由により、生産井や還元井はほとんど全ての坑井が傾斜掘りで掘削されています。

傾斜掘は、坑井を曲げ始めるキックオフポイント(KOP)まで垂直に掘削し、同所よりダウンホールモータ(DHM)のベントハウジングを指向する方向に設置して開始します。指向方向に向けたベントハウジングの方向をツールフェイスといいます。一定の角度と方向を得たのちは、ダウンホールモータでコントロール掘削する方法と、掘削編成のスタビライザーの位置とビット荷重を変え、増角・沿角・減角をコントロールしながら掘削する方法があります。傾斜の方位と角度、ツールフェイスは、シングルショット測定器またはMeasurement While Drilling(MWD)を用いて計測します。図1に傾斜掘り概念図を示します。

図1 傾斜掘概念図
図2 掘削編成によるコントロール

◎掘削編成によるコントロール
掘削編成によるコントロールは、梃子の原理、振子の原理、スタビリゼーションの原理を用いておこないます。梃子の原理は、ビット直上のスタビライザーが梃子の支点となり、ドリルカラーが湾曲して起る下向きの力が梃子のレバー末端を押し上げる作用を及ぼします。この力によりビットを上方に持ち上げ坑井は増角します。振子の原理は、ビットの数10m上部にスタビライザーを取付け、このスタビライザーが振子のピボットの役目を果たし、スタビライザー下部のドリルカラーが重りとなり、垂直方向に引き戻す力となります。この力によりビットは下方向に動き坑井は減角します。スタビリゼーションの原理は、ビット直上とその数m上部、数10m上部にスタビライザーを取り付け、増角しようとする力と減角しようとする力の両方が発生しないようにします。これにより坑井は沿角に掘削されます。図2に掘削編成によるコントロール図を示します。

図2 掘削編成によるコントロール
図3 DHM掘削の概要

◎ダウンホールモータによるコントロール
ダウンホールモータによるコントロールは、モータ部とスラストベアリング部の間にあるベントハウジングの機構により行われます。ベントハウジングはある角度の曲りを持ち、その角度は調整リングの位置を変えることにより、一定範囲内で任意に設定することができます。スライディングモードは、ベントハウジング角を任意の方向に向け、モータのみを回転させて掘削します。これにより坑井は任意の方向に掘削されます。ローテイティングモードは、モータとストリングスの両方を回転させ掘削します。これにより坑井は沿角に掘削されます。図3にDHM掘削の概要を示します。

図3 DHM掘削の概要

【参考文献】

  • ・新エネルギー財団(2019):「令和元年度 地熱開発技術者研修会テキスト」
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