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地熱井のビット計画

地熱井の掘削には、主にローラーコーンタイプのビットが用いられている。また、コアを採取する場合は、ダイヤモンドコアビットが用いられている。

◎ビットの切削挙動

ビットの切削挙動は、圧縮破壊(Crushing)とせん断破壊(Shearing)に大別される。また、ビットによる掘削作業では、岩石の破壊と破壊した岩石の剥離・排除の作業が必要となる。図1 にビットの切削挙動を示す。

図1 ビットの切削挙動
図1 ビットの切削挙動

圧縮破壊は、カッティングストラクチャーにより岩石を圧縮し、そのせん断力で岩石を破壊する。圧縮破壊には、破壊後の岩石の剥離や排除の作用はない。カッティングスが掘削個所に停滞すると再粉砕が発生し、掘進率が大きく減少するので、掘削流体による剥離や排除が必要である。ローラーコーンビットは、主に圧縮破壊で岩石を破壊する。

せん断破壊は、カッティングストラクチャーが掘削面に平行に動くことによって、岩石にせん断力を与えて破壊する。このため、一般に高い破壊強度を持つ岩石では、カッティングストラクチャーが破損・摩耗するので適さない。せん断破壊は、破壊と同時にカッティングスを剥離する作用があるので、掘削流体によるクリーニングが適切に行われていれば、再粉砕が発生する可能性は少ない。PDC ビットやダイヤモンドビットは、主にせん断破壊で岩石を破壊する。

◎ローラーコーンビット

図2 ローラーコーンビットの形状(TIX社カタログ)
図2 ローラーコーンビットの形状(TIX社カタログ)

ローラーコーンビットは3つのコーンを持ち、各コーンの中にはベアリングが内蔵されている。ベアリングには、ローラーベアリングとフリクションベアリングの2種類がある。ローラーコーンビットには、給油機構が付属しており、掘削中ベアリングに注油が行われベアリングの寿命を長くすることができる。図2にローラーコーンビットの形状を示す。

地熱井では、高温環境下におけるビットライフの減少、研磨性地質によるビットボディの摩耗などの問題が発生するため、ビットの耐熱性および耐摩耗性が重要である。適切なビットの選定をおこなうことにより高い掘進率、長いビットライフを得ることができる。

高温度下での掘削には、耐熱性のオイルシールを含む給油機構を持ち、シャーツテイルおよびレグ部を補強したビットを選択する。ダウンホールモータを使用する場合は、シャーツテイルおよびレグ部の補強と高速回転に適したベアリング機構を持つビットを選択する。

◎コアビット

コアビットは、コアを採取する場合にコアバーレルと合わせて用いられる。コアビットのタイプは、ダイヤモンドコアビットとPDCビットがある。

ダイヤモンドコアビットは、工業用ダイヤモンドをボディに多数植え込んだサーフェイスタイプと、粉末ダイヤモンドとマトリックスからなる粉末金属を混合して焼結したインプレグネートタイプがある。サーフェイスタイプは比較的軟質な地質に適合し、インプレグネートタイプは硬質な地質に適合する。PDCタイプは、取り付けてあるカッティングストラクチャーの形状により軟質から硬質まで各種のタイプがある。図3各種のコアビットを、図4にコアバーレルとコアビットを示す。

地熱井では、地質が比較的硬質であることからインプレグネートタイプが使わることが多い。近年、比較的硬質用のPDCタイプが開発されたことから、PDCタイプも使用することがある。

図3 各種のコアビット
図3 各種のコアビット
図4 コアバーレルとコアビット
図4 コアバーレルとコアビット

◎PDCビット

図5 PDCビットの使用前後
図5 PDCビットの使用前後

PDCビットは、直径1~2cm、厚さ約0.5mmの人工ダイヤモンドを一定の形に燒結したカッティングストラクチャーをボディと一体化したビットで、カッティングストラクチャーを地質に食い込ませ回転させることで掘削する。PDCビットは、ベアリングやオイルシール等の機構を持たないため、高温度個所の掘削に適しており、地質に適合すれば掘進率が高く、高速回転に適合できるという利点がある。

米国のEGS研究では、PDCビットの開発試験が行われており、硬質な花崗岩層を掘削した記録もある。国内の地熱井においても使用され始めており、比較的軟質な地質では高い掘進率を得ているが、花崗岩のような硬質な地質では短時間でカッティングストラクチャーが破損したという実績がある。図5にPDCビットの使用前後を示す。

【参考文献】

  • ・新エネルギー財団(2021):「令和3年度 地熱開発技術者研修会テキスト」
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