新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-

地熱掘削技術(その3)

2高傾斜掘削

(1) 高傾斜掘削の利点
 高傾斜掘削は、既存の敷地からより遠くのターゲットまで掘削でき開発範囲を拡大でき、新基地や道路、蒸気ラインや還元ライン工事費等を削減できる。また、新基地や蒸気ライン、道路を少なくできることによる地表環境への影響を軽減できる。

図5 高傾斜部でのカッティングスの挙動模式図
図5 高傾斜部でのカッティングスの挙動模式図

(2) 高傾斜掘削の対応
 傾斜部のカッティングス挙動は、傾斜角45度までは垂直井の場合とほぼ同じであるが、45度を超えるとカッティングスが下側に堆積してカッティングスベッドが形成され易くなり、55度を超えるとフラットなカッティングスベッドが形成され易い。ビット荷重も傾斜角が45度を超えるとビットまで伝わりにくくなる。このようなことから、傾斜角が45度を超える傾斜掘削は、難易度が高くなる。図5に高傾斜部でのカッティングスの挙動模式図を示す。
 高傾斜掘削では、トルク・ドラッグの増加に耐えるドリルパイプの使用、カッティングスベッドを排除できる送泥を行える泥水設備、傾斜方位コントロール時のツールフェイスの指向対策、ケーシングセメンチング時のチャンネリング防止等の対応が必要である。

図5 高傾斜部でのカッティングスの挙動模式図
図5 高傾斜部でのカッティングスの挙動模式図

(3) ドッグレグ強さ
ドッグレグ強さは、30m当たりの方位と角度の変化率で、大きなドッグレグ強さが発生すると坑内トラブルの原因となる。大きなドッグレグ強さは、急激な傾斜角の変化や方位転換により起こるもので、坑井の方位・傾斜の急激な変化による極端な曲がりを作らないよう、ビット荷重、掘削編成、地層の変化などを考慮して掘削する必要がある。
 大きなドッグレグ強さによるドリルパイプ切断事故は、ドッグレグ箇所から下の区間が長くなるに従って発生する可能性が大きくなる。深部掘削をおこなう場合には比較的小さな角度のドッグレグでも浚渫をおこなうなどの対策が必要である。 ケーシングパイプは、ストリングより曲りにくいため、大きなドッグレグ強さはケーシングの降下に支障をきたす。また、大きなドッグレグ強さは、ケーシングセメンチング時にチャンネリング現象を発生させる原因となる。

図6 カッティングスベット抑留
図6 カッティングスベット抑留

(4) カッティングスベットによる抑留
高傾斜部に形成されたカッティングスベッドが、坑内に滑り落ちるとドリルストリングが抑留されることがある。このトラブルは、傾斜角が50度以上の坑井で揚管中に発生することが多く、荷重がかかる場合は強引せず循環して浚渫をおこなう必要がる。図6にカッティングスベットによる抑留模式図を示す。

図6 カッティングスベット抑留
図6 カッティングスベット抑留

(5) 高傾斜掘削の課題
近年、MWDとダウンホールモータを多用することにより、高傾斜でのコントロ-ル掘削は容易となり、最大傾斜が50度を超えるような高傾斜地熱井も掘削されている。しかし、カッティングの排除や大きなドッグレグによる坑内トラブルへの対応はMWD等の技術で解決できることはなく、適切な坑井内管理が必要となる。

【参考文献】

  • ・新エネルギー財団(2023):「令和4年度 地熱開発技術者研修会テキスト」
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