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太陽光発電に係る林地開発許可基準について

2022年7月28日に再生可能エネルギー発電設備の適切な導入及び管理のあり方に関する検討会(事務局は経産省、農水省、国交省、環境省)が提言を取りまとめた。その内容全般については既にこの解説コーナーでも取り上げられているので、今回はその中から特に事前の検討が進んでいて比較的早期に具体化されそうな林地開発許可制度における対応について解説する。

  • (1)林地開発許可制度について
     森林の持つ水源の涵養、災害の防止、環境の保全といった公益的機能を維持するため、我が国では明治時代から保安林制度が設けられ、農水大臣または都道府県知事による保安林の指定が行われ、指定された保安林では開発が厳しく規制されてきたが、昭和40年代以降、ゴルフ場の開発をはじめとする大規模な森林開発が行われるようになり、指定された保安林を守るだけでは森林の公益的な機能を維持できないことが危惧されたため、昭和49年に森林法の改正が行われ、保安林以外の民有林についても一定規模(現在は政令で1ヘクタールとされている)を超える開発には都道府県知事の許可が必要とされた。これが林地開発許可制度である。なお、1ヘクタール以下の場合も樹木の伐採の際には市町村長への届け出が必要とされている。ただし、保安林のように原則として開発させないことが目的ではなく、森林の有する公益的機能を阻害しないよう開発行為を適正化させることが目的のため、災害の防止、水害の防止、水の確保、環境の保全の4要件を満たしている場合には許可しなければならないこととされている。本制度については、ゴルフ場やスキー場、別荘地等の開発がブームとなっていた平成10年ころまでは多くの申請・許可があったが、その後は落ち着いた推移であったところ、平成24年のFIT制度の開始以降再び申請・許可が増加することとなった。
  • (2)太陽光発電に係る林地開発許可基準について
     平成24年のFIT制度の開始以降太陽光発電施設の設置を目的とした林地開発が急増する中で、地域住民の反対運動がおこる事例も散見され、また全国知事会等から地域との共生のための規制整備等の要望があったことから、林野庁では太陽光発電施設の特殊性を踏まえた適切な林地開発許可基準について検討を行い、令和元年12月に太陽光発電施設の設置に関する林地開発許可基準の運用細則を定めて都道府県に通知した。
     具体的には、太陽光発電に係る林地開発においては、①現地形に沿って設置が可能、②不浸透性のパネルで地表の大部分が被覆されるため雨水が地中に浸透しにくい、③パネルの遮光によりその下が長期にわたって裸地又は草地のままになる、④採光を優先させるため、森林が障害物として取り扱われるといった特徴があり、それに対応して、許可基準では、①施設の設置区域の平均傾斜度が30度以上の自然斜面である場合に、擁壁又は排水施設等の防災施設を確実に設置すること、②排水施設の計画に係る雨水流出量の算出に用いる流出係数は0,9~1,0とすること、③表面流を分散させるための柵工、筋工等の措置や、地表保護のための伏工による植生の導入等の措置を適切に講じること、④残置森林及び造成森林を合わせた森林率はおおむね25%(うち、残置森林率はおおむね15%)以上とし、原則として周辺部に配置するとともに尾根部については原則として残置森林を配置すること、⑤住民説明会の実施等の取り組みを配慮事項とすること等を運用細則として通知している。
  • (3)今回の提言を踏まえた今後の対応について
     林野庁では、今回の検討会の提言の取りまとめに先立って、太陽光発電に係る林地開発許可基準の運用状況等についてフォローアップを実施し、今後さらに必要となる対策について整理し、提言に盛り込んでいる。主な点は次のとおりである。
    • ①1ヘクタール以下の小規模林地開発について、事業地周辺に濁水等の被害が確認された事例を調べてみると約7割が太陽光発電施設の設置を目的とする開発であり、他の開発に比べて災害の発生率が高いことから、現行1ヘクタールを超える開発に適用されている林地開発許可制度を太陽光発電施設の設置を目的とする林地開発については0,5ヘクタール程度に引き下げて設定することが適当。
    • ②林地開発許可を受けた太陽光発電の施工地の約9パーセントで工事施工中に土砂流出や濁水などが発生。施工中の災害の発生を防止するためには、防災施設と他の開発行為の施行順序を整理し、防災施設の先行設置を行うまでは他の開発行為を制限するなどの条件を付することで確実に災害の発生を防ぐことが適当。
    • ③再エネ特措法や電気事業法でもすでに問題となっている規制逃れの事業の分割を防ぐため、開発行為の一体性の判断について考え方の整理を行う。
     これらの対策については、今後の着実な実施が期待されるところである。

【参照資料】

  • ・再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理の在り方に関する検討会 提言 令和4年7月28日
  • ・太陽光発電に係る林地開発許可基準に関する検討会 中間とりまとめ 令和4年6月17日
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