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脱炭素化に向けた宇都宮市の取り組みについて

2022年11月1日に環境省から脱炭素先行地域(第2回)選考結果の発表があった。今回は50件の応募の中から20件が選考された。その中の一つとして宇都宮市等による提案「コンパクト・プラス・ネットワークによる脱炭素モデル都市構築~LRT沿線からはじまるゼロカーボンシティの実現~」が選定されたので、それについて解説する。

まず始めに、宇都宮市のまちづくりの全体構想について説明する。宇都宮市では市の中心部の都市拠点と各地域の地域拠点という2層の拠点をそれぞれコンパクトな形で配置したうえで、それらを階層性を持った公共交通ネットワークで結んで相互に連携・補完し、市民生活に必要な機能を充足できる都市「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」を目指している。南北に延びる鉄道に加え、東西を結ぶLRT(次世代型路面電車)を新たに整備し(令和5年8月供用開始予定)、さらにそれらを路線バス等で補って、子供から高齢者までが安全で快適に移動でき、環境負荷の少ないまちを作っていこうとするものである。そして公共交通の利用促進のため、地域連携ICカード「totra」の導入、バスの上限運賃制度、乗り継ぎ割引制度を整備している。

こうしたまちづくりの全体構想とそれに伴う施策の流れを踏まえての今回の脱炭素先行地域への応募であるが、応募に当たって宇都宮市では3つの課題を挙げてその課題の解決に向けた取り組みを行うこととしている。

  • <課題1>地方都市特有の自動車依存による運輸部門のCO2排出
    宇都宮市において運輸部門が占める温室効果ガスの排出量の割合は27%で全国より7ポイント高い割合を示しており、特に市の東部に集積している工業団地周辺では通勤時間帯に慢性的な渋滞が発生。その対策としてLRTの整備を行っており、令和5年8月に供用開始するが、それをさらに脱炭素化に向けて使っていきたい。
  • <課題2>電力系統連系制約を踏まえた地域再エネの導入拡大
    栃木県は冬季の日照量が多いことから既に再エネの導入が進んでいて、系統設備の空き容量が不足している。そのため、宇都宮市は市内全域が高圧系統への逆潮での接続ができない「系統連系制約エリア」になっており、その中での再エネの導入拡大に向けてはさらに工夫した取り組みが必要になっている。
  • <課題3>エネルギー費用の市域外への流出及び災害時の対応力強化
    再エネの地産地消を進める仕組みと自律分散型エネルギーの導入が必要。

そして、こうした課題の解決に取り組む対象地域として「LRT沿線地域」(具体的には宇都宮駅から市東部の工業団地・住宅団地を経て隣接する芳賀町の工業団地まで)を取り上げている。LRTに加えて電気バス等も導入し、これらを再エネ電気により動かすことで「ゼロカーボンムーブ」を構築して運輸部門のCO2の削減すること及び公共・民間施設、大学、一般住宅等に太陽光発電・蓄電池等を導入し自家消費を行うともに地域新電力会社(宇都宮ライトパワー株式会社)による再エネの一括調達と高度なエネルギーマネジメントを行うことを柱に計画を取りまとめている。

具体的な取り組みは以下の九つで構成されている。

  • ① 公共・民間施設、大学、一般住宅への太陽光発電と蓄電池等の導入及び需要側における自立制御
  • ② 公共施設跡地や調整池へのオフサイト太陽光発電の導入、地域新電力を介した電力供給又は自営線による自家消費
  • ③ 地域新電力におけるエネルギーマネジメントの実施
  • ④ LRTへの再エネ100%供給による「ゼロカーボントランスポート」の実現
  • ⑤ バス運行とエネルギー管理を一体化したエネマネシステムによる電気バスの運行
  • ⑥ 公共交通の利用促進と地域内交通車両等のEV化等の脱炭素交通の導入
  • ⑦ 公共・民間施設等への再エネ電気自動車及び充放電設備の設置、カーシェア利用
  • ⑧ 太陽光等の再エネ発電量と電力需要量をマップ上に可視化することを通じて再エネの地産地消率を向上させる実証事業
  • ⑨ 環境配慮行動のポイント事業による行動変容の促進

系統の制約が厳しい中での計画であるため、取り組み自体の規模は県庁所在地の大都市の計画としては控えめな印象であるが、我が国ではこれまでに例のないLRTの新設導入と併せてその成功を期待されたものと考えられる。

【参照資料】

  • ・環境省ホームページ 2022年11月1日脱炭素先行地域(第2回)選考結果について
    宇都宮市脱炭素先行地域計画提案書
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