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都市ガスのカーボンニュートラル化について

令和5年6月13日に総合エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会ガス事業制度検討ワーキンググループが開催され、「都市ガスのカーボンニュートラル化について 中間整理」が取りまとめられた。また翌日の6月14日にはメタネーション推進官民協議会が開催され、本件中間整理について報告が行われた。

カーボンニュートラルに向けた燃料分野の検討としては、5月16日の「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会中間とりまとめ」、5月26日の「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会中間とりまとめ」に続くものであるが、これら2件の「中間とりまとめ」が、それぞれ関係する自動車業界、航空業界の世界的な動向を見据えた上で現状においてとりあえず必要な行動をとるための「とりまとめ」である(別稿にて解説済み)のに対し、本件は現状では特段の行動をとる必要がないため、「中間整理」となっている。6月6日に改定された水素基本戦略との関係の整理と7月4日付けの資源エネルギー庁の組織改編(水素・アンモニア課の新設等)に向けた準備といった程度のものである。令和2年9月に始まった「2050年に向けたガス事業の在り方検討会」を含めれば3年近く検討を行ってきたうえでの中間整理であり、大変にゆっくりとした検討の進行であるが、それには次のような理由があるように思われる。

  • ①従来、天然ガスについては、石油や石炭に比べCO2の排出が少ないことから、地球温暖化対策に有効であるとしてその利用を推進してきた経緯がある。カーボンニュートラル宣言があったからと言って、安易にそれまでに行ってきたことが適切でなかったかのような対応は取れないし、さらに言えば、天然ガスの利用が「悪」となる日が本当に来るのかという疑問があり、検討は進めながらも行動は慎重にせざるを得ない。カーボンニュートラルとはいっても、今の世界においてはヨーロッパ、アメリカ及び中国がたどり着けるところがゴールであり、ゴールラインの位置の見極めを急いではいけない。
  • ②中間整理では、とりあえずの対応策の案として、合成メタンとバイオメタン、そして水素を挙げており、そのほかにCCUSやカーボンクレジットもあるということにしているが、CO2と水素を合成する合成メタンについては、水素を確保できることが前提であり、今般改定された水素基本戦略の進捗を見極めつつの対応にならざるを得ない。バイオメタンについては、従来からその意義については理解されており、すでにエネルギー供給構造高度化法で余剰バイオメタンの購入義務もかかっているが、FIT/FIPの影響もあって残念ながら購入量は減少を続けており、実際のところ手詰まりで多くは期待できない。
  • ③他方、一般の国民、とりわけ2050年においても生きているであろう若者は地球温暖化問題には強い関心を持っており、FIT/FIPで太陽光だ風力だと騒ぎ、さらには余剰電力でエコキュートだEVだと言って盛り上がっているうちには、最後はオール電化にもっていかれてしまいそうである。手をこまねいているわけにはいかず、少なくとも打って出る姿勢は示しておく必要がある。

とはいえ、今回の中間整理でもいくつか重要な注目点はあり、それを次に整理する。

  • ①2050年に向けた都市ガス供給の全体像としては、LNGを漸進的に合成メタンやバイオメタンに置き換えていくことにより、都市ガスの炭素集約度を下げていくこととし、供給インフラや需要側の設備・機器の変更を行わない形でカーボンニュートラル化を実現していく。水素は水素専用の導管やローリーによって需要家に供給する。中間整理の本文における書きぶりは慎重ではあるが、従来から関係者の間で話題となってきた都市ガス導管への水素の混入については行わないという整理のように思われる。
  • ②エネルギーセキュリティ、都市ガスの安定供給確保のため、合成メタンやバイオメタンの国内製造・供給体制の構築に取り組むことが重要であり、合成メタンの国内生産は国内の水素拠点整備や工場・地域単位での取り組みとしての水素利用の一形態として推進(改定後の水素基本戦略に整合)。また、海外製造した合成メタン等の長期安定調達も重要。そしてさらに2050年以降について、国内外からの合成メタン・バイオメタンの長期安定調達に目途が立たない量については、都市ガスの安定供給確保の観点から炭素クレジットやCCUS/カーボンリサイクルを活用したLNG利用を想定する必要がある(ポイントは、LNGの安定調達については2050年以降も見据えて続けるというところ)。
  • ③今回の中間整理が学識者を中心とした総合エネ調の場で行われたことによる大きな貢献としては合成メタンの利用に係る制度等の整備・調整の必要性を指摘したことがあげられる。合成メタンの利用に係るCO2排出について明確な定めがないことを指摘し、国レベルの論点、企業活動レベルの論点を整理している。そしてこの論点は合成メタンだけの問題ではなく合成燃料はもちろんカーボンリサイクル全体に係る論点である。簡単な例を挙げると、化石燃料を使ったボイラーから出たCO2を回収し大気中への放出を減らした者が、そのCO2を合成メタンの原料として譲渡した場合の取り扱いである。合成メタン推進者は当然「合成メタンはCO2フリー」という立場であるが、他方、回収した者は自らのCO2の排出を減らすためにこれを行っているのであり、両方認めればダブルカウントになる。ルール整備も容易ではない。

【参考資料】

  • ・2023年6月 総合エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会ガス事業制度検討ワーキンググループ 中間整理
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