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洋上風力について(その11)
―EEZへの展開に関する主な課題の紹介―

洋上風力について(その9)で述べている通り、内閣府は「EEZにおける洋上風力発電の実施に係わる国際法上の諸課題に関する検討会」を立ち上げ、R4.10.6から4回にわたり検討会を開催しており、R5.1.31にとりまとめ結果を公表した。

その後、R5.4.28には、2023年度から5年間の海洋政策の指針となる「第4期海洋基本計画」を閣議決定した。計画では、「総合的な海洋の安全保障」に加えて、脱炭素化の実現に向けた「持続可能な海洋の構築」を新たな柱に据え、カーボンニュートラルの貢献として以下の方針を決定した。

「脱炭素化の実現に向けた海洋由来のエネルギーの利用」として
 洋上風力発電については、安全保障や環境への 影響の観点を十分に考慮しつつ、EEZへの拡大に向け法整備や、国産化に向けた技術開発を推進 等

https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/plan/plan04/plan04.html 参照

また、経済産業省と国土交通省は、浮体式洋上風力の導入拡大を目指して、「浮体式産業戦略検討会」を立ち上げ、検討結果を踏まえて「第2次洋上風力産業ビジョン(仮称)」をまとめることとしている。

浮体式洋上風力発電については、浮体式に係る開発課題がいろいろあると思われるが、ここでは、EEZへの展開に係る課題として「京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座」にて述べているので、その概要について紹介する。

http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0374.html 参照
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0377.html 参照
  • (1)占用の許可について
     「海洋再生エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」は領海内で適用されるため、国の財産権に基づいて占用の許可を行っている。一方EEZにおいては、国は主権を持たず主権的権利を持つと整理されており、財産権に基づく占用の許可は難しいというのが通説のようである。
     内閣府のとりまとめでは、国内法上必要な手続きを規定するとなっているがどのような整備がなされるのか。また、領海内の発電施設には固定資産税が課されるが、EEZにおいては非課税になるのか、課税する場合にその税はどこの自治体の収入になるのか等、未解決の課題は多い。
  • (2)安全水域の設定の考え方
     「海洋法に関する国際連合条約」上は500mを超えない範囲で安全水域を設定できるが、ウインドファーム全体を包括した水域を設定するなど考え方もあり、今後、条約の改定も視野に入れた議論が必要かも知れない。
  • (3)環境アセスについて
     「海洋法に関する国際連合条約」においては「重大かつ有害な変化をもたらすおそれがあると信ずるに足りる」場合にアセスを行う必要があるが、ここでは海洋の汚染防止という観点が重視されている。
     従って、洋上風力発電においては破壊、劣化等によって部材、塗料、油脂等が海洋に流出するリスクを評価すれば済むのではないだろうか。但し、現行アセス法の手順を踏襲するとしても、EEZを管轄する自治体がないため、都道府県知事の取り扱いをどうするかがポイントになると思われる。
  • (4)漁業をめぐる問題
    〇水産業界を交えた官民協議会による対話
    今後、どれだけの案件と調整が必要とされるのか、この先どこまで拡大していくのかという不安が漁業界に存在する。総理が言うように官民が協調して導入目標を策定するなら、水産業界抜きの「官民協議会」ではなく、水産業界も交えた対話により、まさに協調した目標が策定される必要がある。
    〇沖合域での操業水域との調整
    沖合漁業の実態【注記】を踏まえて、政府レベルで洋上風力発電施設と共存ができない漁法・漁業との棲み分けについて事前に調整を図ることが不可欠である。
    【注記】
    沖合漁業にも様々な漁法(底びき網、まき網、刺網、はえ縄等)がある。近海まぐろはえ縄を例にとれば、その幹縄の長さは150キロにも及ぶ。幹縄には針のついた枝縄が2000本以上。針に餌を付けながら仕掛けを次々と海に流す作業で4~5時間。はえ縄を流し終わったら、休息・仮眠ののち、10時間くらいかけて縄を揚げ魚を収獲していく。このような漁法による漁業が沖合漁業の主力であり、食糧安全保障の一環として国民への食料供給、特にたんぱく源供給を担う基幹漁業である。

EEZ海域内は、北方4島水域のような係争水域も含んでいる。政府内では、現状の再エネ海域利用法の適用範囲をEEZまで広げることを視野に入れているとされているが、領土問題等外交的な問題も配慮の上、公募海域の絞り込みを行うことが不可欠である。

洋上風力について(その9)でも述べているが、各国の状況も参考にしながら、政府において今後の制度設計を検討していくことが必要である。

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