新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-新エネルギー「最近の話題・キーワード」解説コーナ-

「地域と共生した再生可能エネルギーの大量導入」について(再考察)

本解説コーナーで令和4年10月に表記テーマについて解説し、この言葉の意味は、太陽や風力等の「再生可能エネルギーの大量導入」を地域と共生する形で進めたいということであり、国としては、そのための対策として

  • ・地域の人々に十分説明し事業について理解してもらうこと
  • ・森林法や盛土規制法等の法令を遵守して事業を進めてもらうこと

等が必要であると考えているということを説明した。

そして現在、国はそれらのことが確実に行われるよう今国会に再エネ特措法の改正案を提出している(本解説コーナーの「GX脱炭素電源法案の概要について」を参照)。

これらの対策は必要なことではあるが、それで十分かと考えるとやや力不足ではないかと思われるところである。そこで追加の策はないかと考えてみたのが以下の考察である。

私は今から30年以上前に地方の県庁に出向して企業誘致を担当したことがある。データに基づくものではないが、その時の経験を踏まえたイメージとしては、工場であれば数ヘクタールの用地で100人の雇用効果、ゴルフ場だとその10倍の数十ヘクタールで100人の雇用効果という印象である。当時はいわゆるバブルの絶頂期で地元の企業の方々も人手の確保には苦労されていたとは思うが、県の発展のためには地元での雇用の機会をもっと増やし、東京、大阪等の大都市圏に人が出ていくのを食い止めなければならないという思いは県民に広く共有されていて、企業誘致に対して反対は起きなかった。ゴルフ場の場合も、用地が広く手間がかかる割に雇用効果は小さいが、集客施設であるので見栄えがよい上、来場者がゴルフ場内の売店あるいは周辺の直売場などで地元の果物や野菜を購入する等でお金を落としてくれるということで県庁が取り組むことに異論はなかったところである。

こうした経験を前提に、再生可能エネルギーについて考えてみると、ゴルフ場と同じくらいの面積で大規模な太陽光発電所を作ったとして、雇用はと考えるとおそらく10人にもならないのではと思われる。製造業の場合に比べると雇用面での効果は100分の1である。草刈り等で多少の外注作業は発生するが、集客施設ではないので、地域の外から来たお客さんが周辺にお金を落としてくれることもない。したがって、県庁の企業誘致部門で太陽光発電所の誘致を行っているところはないと推察するところである(洋上風力については規模が大型化しており、関連する産業も多いので推進体制が整っている県もあると思われる)。

この点を補うため、国ではエネルギーの地産地消であるとかレジリエンスという視点から再生可能エネルギーの立地を推奨しているが、町役場や地域住民の家で現状において電気がなくて困っているところはないし、既にこの国では災害はめったに起きない程度には備えはできているので、これらはあまり心に響かない。

ここで改めて30年前に私はなぜ地方の県に出向して企業誘致を担当したのかというところに戻って考えると、それは、当時の国の政策には「工業再配置」という政策(さらに工業だけではなく情報産業等の地域への展開を進める「テクノポリス構想」もその派生形)があったことによる。3大都市圏に集中していた産業を地方に誘導することによって、国土の均衡ある発展、地域の活性化を図ろうという政策である。当時この政策を担当していた「立地公害局」は現在「産業技術環境局」になっているが、省庁再編の中で行われた局の再編の過程で、立地政策は完全に消滅してしまったように思われる。もちろん今でも地域の活性化は重要な政策の柱として残っており、経済産業省にも対応する組織はあるが、産業の立地誘導・再配置により地方を振興するという政策はとられていない。

エネルギーの地産地消という政策の中で、せっかく作られた再生可能エネルギーを町役場や地域住民が使ってしまうのではあまりありがたみは生まれない。新たにその再エネを使いたいという産業が立地して再エネ電気を使ってくれ、それに伴って雇用の機会も増えるということになれば地域の人々は熱心に応援してくれるのではないだろうか。温対法に基づく脱炭素促進地域の指定制度においても、「地域の経済及び社会の持続的発展に資する取り組み」を併せて定めることが求められているが、それを地域の人々と市町村レベルの自助努力で行うことにはおのずと限界がある。国及び県レベルの政策として再エネの立地促進に合わせて再エネを必要としている産業の立地誘導を行うのが効果的であるように思われるところである。

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