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第18回 解説記事:「ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた動向」
1.はじめに
太陽光発電は、2012年の固定価格買取制度(FIT)の導入以降、日本の再生可能エネルギー拡大を牽引してきました。近年は、FIP制度の導入やオフサイトコーポレートPPA、自家消費型の導入も進み、需要地に近い場所で太陽光を活用する動きが広がっています。
第7次エネルギー基本計画(2025年)では、表1に示すように、2040年度の電源構成において、再エネを4~5割程度、太陽光発電を23~29%程度とする見通しを示しました。これは2024年度実績である再エネ23.0%、太陽光9.9%から大きな拡大を意味します。
| 項目 | 2024年度実績 | 2040年度見通し |
|---|---|---|
| 再エネ比率 | 23.0% | 4~5割程度 |
| 太陽光比率 | 9.9% | 23~29%程度 |
| 風力比率 | 1.2% | 4~8%程度 |
太陽光発電を現状の2倍以上へ拡大するためには、従来の地上設置に加えて、建物・インフラ・未利用空間を活用する新たな手法が必要になります。しかし、日本は山地が多く、平地の利用が限られるため、従来型の大規模太陽光発電だけで導入量を増やすことには限界があります。そこで注目されるのが、軽量・薄型・フレキシブルといった特性を備え、これまで太陽光発電に適していなかった場所へ導入できるペロブスカイトなどの次世代太陽電池です。
2.太陽電池の種類とペロブスカイト太陽電池の構造・種類
次世代太陽電池とは、現在主流のシリコン型太陽電池を補完または高度化することを目指して開発されている新しい太陽電池の総称です。図1に太陽電池の分類を示します。発電層材料でみると、シリコン型、化合物系、有機系に分類され、さらに構造では、単接合型とタンデム型に分類できます。
![]() 図1 太陽電池の種類
出典:経済産業省, 「次世代型太陽電池戦略」,2024.11をもとに作成 |
ペロブスカイト太陽電池は、図2に示すように3種類のイオン(代表例 A:有機アンモニウム、B:鉛、X:ヨウ素)がABX3のペロブスカイト結晶構造で配列する材料を発電層に用いた太陽電池の総称で、日本発の技術です。
![]() 図2 ペロブスカイトの結晶構造およびペロブスカイト太陽電池の構造
出典:経済産業省, 「次世代型太陽電池戦略」,2024.11 |
2009年に桐蔭横浜大学の宮坂教授のグループにより製作されたペロブスカイト太陽電池セルの変換効率は3.8%でしたが、図3に示すように、2012年に固体型ペロブスカイト太陽電池が開発されて安定性が向上し、2024年には26%を超え、シリコン系に迫る水準に達しました。
![]() 図3 ペロブスカイト太陽電池(セル)の効率向上の推移
出典:NLR(旧NREL), ”Best Research-Cell Efficiency Chart”, (2026.9) をもとに作成 |
ペロブスカイト太陽電池を形状・用途で分類すると、図4に示すように「フィルム型」、「ガラス型」「タンデム型」に分けられます。フィルム型は、塗布・印刷系プロセスによる製造が期待されます。また、シリコン型とのタンデム化により、さらに高い変換効率を狙える点も大きな特徴です。
![]() 図4 ペロブスカイト太陽電池の種類と特徴
出典:積水化学工業, 「ペロブスカイト太陽電池事業説明会」,2025.1 をもとに作成 |
3.ペロブスカイト太陽電池の特徴と導入が期待される背景・適用例
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン型などと比較して、表2に示す長所および短所があります。
| 長 所 |
|---|
| ・ 軽量で薄く曲げやすいため、屋根・壁面・窓など設置場所の自由度が飛躍的に高まる。 |
| ・低照度条件でも比較的良好な発電特性が期待される。 |
| ・半透明化が可能であり、窓などの建材一体型への応用が可能。 |
| ・フィルム型形状でシリコン型と比較して製造工程が少なく、製造コスト低減が期待される。 軽量化により、輸送および設置コストの低減も期待される。 |
| ・主要原料のヨウ素は日本が世界2位のシェア30%を占める。 |
| ・製造時の温度が低く、材料を分離・回収しやすく、環境負荷低減が期待される。 |
| 短 所 |
| ・大型のモジュールは安定した生産が難しく、高変換効率の実現が難しい。 |
| ・シリコン型に比べ長期屋外運用実績が十分に蓄積されておらず、長期耐久性・信頼性の確保が課題 (シリコン型は20~30年)。 |
| ・環境に有害な鉛を含む。 |
宮坂力, 「ペロブスカイト太陽電池の開発−性能と設置から回収まで」,エネルギー・資源学会誌 Vol47 No.2(2026) などをもとに作成
ペロブスカイト太陽電池への期待は、単に高効率の新技術という点だけではありません。最大の意義は、軽量でフレキシブルな特性を活かし、これまで太陽光発電の設置が難しかった場所を「発電する空間」に変えられる可能性にあります。日本のように大規模な平地が限られる国では、未利用空間をいかに活用するかが、太陽光発電拡大の重要な論点になります。
具体的には、高層ビルの壁面や内窓、既存ビルの窓、工場や駅のホーム、体育館など耐荷重が低い屋根、営農型、通信基地局や風車などのタワー、高速道路や空港の防草シート一体型など、多様なユースケースが想定されています。特にフィルム型は、軽量性と曲げやすさを活かして、従来型パネルでは難しい曲面や垂直面への適用が期待されます。
図5に代表的な適用例を示します。都内の高層ビル計画では壁面内部への設置が示され、千葉県では営農型の実証が進められています。
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出典:東京電力HD,「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業 世界初 フィルム型ペロブスカイト太陽電池による高層ビルでのメガソーラー発電を計画」, 2023.11 積水化学工業,「国内初、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を用いた営農型太陽光発電設備の水田での取り組みを開始」, 2026.3
4.ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた国の支援策
ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術であり、国内企業による開発・事業化の動きが活発です。国の支援策としては、「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」 が2024年5月に設立され、経済産業省が「次世代太陽電池戦略」を2024年11月にとりまとめました。この中で、「生産体制整備」、「需要創出」、「量産技術の確立」を三位一体で進める方針が示されました。これは、2000年代のシリコン型太陽電池において、日本企業は技術的に先行しながら、その後、2010年代には政府の支援を受けた中国企業の量産化によるコストダウンと市場形成で後れを取った経験を踏まえたものです。
また、ペロブスカイトを中心とする次世代太陽電池の実用化を進めるために、グリーンイノベーション基金によるNEDOの次世代太陽電池開発事業(基盤技術開発、実用化事業、実証事業)が2021年12月から進められています。
表3に「次世代型太陽電池戦略」におけるペロブスカイト太陽電池の2030年および2040年の生産体制と発電コスト目標を示します。政府は、ペロブスカイト太陽電池を中心とする次世代型太陽電池について、2040年までに約20GWの導入を目指すとともに、2030年までの早期にGW級の国内生産体制を構築する方針を示しています。
![]() 出典:経済産業省,「次世代型太陽電池戦略」,2024.11
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また、国や地方自治体においても、ペロブスカイト太陽電池の導入支援事業を進めています。
5.ペロブスカイト太陽電池の国内外企業の動向
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、国内外で企業による開発・事業化の動きが活発化しています。まず、国内の主要事業者の動向を表4に示します。フィルム型、ガラス型、タンデム型など、各社が狙う市場や強みは異なっており、建材市場、インフラ市場、未利用空間活用市場などで多様な展開が期待されます。
また、ペロブスカイト太陽電池の普及に向けて、民間の関連企業が2026年5月に「日本ペロブスカイト太陽電池普及促進協議会」を設立しました。安全性認証や製品規格の標準化、サプライチェーンの確立、製造技術や施工人材の育成など業界共通の課題解決に取り組み、日本全体でペロブスカイト関連の産業競争力の強化につなげるものです。
| 企業名 | 形状・主なターゲット | 特徴・研究開発状況 |
|---|---|---|
| 積水化学工業 | フィルム型 屋根・壁面・未利用地 |
ロール・ツー・ロール製法。 2026年3月にフィルム型ペロブスカイト太陽電池「SOLAFIL」の事業開始を決定。2027年度の100MW規模生産ライン立ち上げを最優先事項として推進。 |
| パナソニック | ガラス型 窓・壁面・バルコニー |
ガラス一体型の建材。 2023年8月から藤沢SSTで長期実証を実施。2023年に実用サイズモジュールとして世界最高レベルの変換効率(18.1%)を達成。2025年度からのNEDO事業において、量産技術開発、フィールド実証を実施中。 |
| エネコートテクノロジーズ | フィルム型・タンデム型 壁面・道路法面・宇宙 |
自社開発の塗布装置を保有。 2025年にペロブスカイト/シリコンの4端子タンデム型太陽電池で変換効率 30%超を達成。2028年頃にGI基金で開発した屋外向けの事業化を想定。発電コスト20円/kWhの900c㎡サイズのパネル開発が目標。 |
| 東芝 | フィルム型・タンデム型 軽量屋根・壁面・インフラ |
大面積・高効率に強み。 2025~2029年度のNEDO事業でモジュール効率30%以上、耐久性20年以上を目標に開発中。 |
| カネカ | フィルム型・タンデム型 低荷重屋根・垂直壁面・住宅用途 |
住宅用PV事業をベースにした顧客・市場要望に応える開発力。 2028年度にタンデム型の製品販売開始予定。2026年度からのNEDO事業において、量産技術開発を進めている。 |
NEDO グリーンイノベーション基金事業 「次世代太陽電池の開発」の各社の事業戦略ビジョン 藤本隆太,
「素材技術で産業化に挑むペロブスカイト太陽電池」,日刊工業新聞社,2024 をもとに作成
一方、海外でもペロブスカイト太陽電池の実用化・量産化に向けた競争が急速に進んでいます。 欧州では、英国発のOxford PVがペロブスカイト/シリコンタンデム型で先行しており、ドイツ・ブランデンブルクの生産拠点で商用タンデム太陽電池・モジュールを製造しています。2026年には米国First Solarとペロブスカイト関連特許のライセンス契約を締結するなど、製品製造に加え、知的財産を活用した事業展開も進めています。
中国では量産化への投資が特に活発です。GCL(協鑫光電)は2025年6月、昆山で世界初とするGW級のペロブスカイト/シリコンタンデムモジュール製造拠点を稼働させ、同年10月にはGW級生産ラインからフルサイズのペロブスカイトモジュールを製造するなど、大面積化と量産化を進めています。
また、世界有数のシリコン太陽電池メーカーである中国LONGi(隆基緑能)は、既存のシリコン技術とペロブスカイトを組み合わせたタンデム型の研究開発を強化しています。2026年7月には、欧州の第三者試験機関ESTIの認証により、結晶シリコン/ペロブスカイトタンデムセルで変換効率35.5%を達成したと発表しました。大面積セルやモジュールでも高効率化を進めており、シリコン太陽電池で培った製造基盤を次世代タンデム技術へ展開する動きがみられます。
このように海外では、研究セルの高効率化にとどまらず、GW級の量産設備、既存シリコン技術とのタンデム化、知的財産戦略を含め、ペロブスカイト太陽電池の産業化を巡る競争が本格化しています。日本がペロブスカイト太陽電池で技術的な優位性を産業競争力につなげるためには、技術開発だけでなく、量産体制の構築、国内市場の形成、施工・認証制度の整備などを一体的かつ迅速に進めることが重要になります。
6.ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた課題
ペロブスカイト太陽電池の社会実装には、いくつかの課題があります。第1は耐久性です。ペロブスカイト結晶は水分や酸素、熱、光などの影響を受けやすく、長期安定性の確保が重要です。用途に応じて求められる寿命や保証期間は異なるため、建材一体型、屋外フィルム型、農業利用などの用途別に設計・評価を進める必要があります。
第2は量産時の品質管理と低コスト化です。研究用の小面積セルで高効率を達成しても、大型モジュールとして安定した性能を確保することは容易ではありません。塗布、乾燥、封止、電極形成などの工程で均一性と歩留まりを高め、量産コストを抑えることが必要です。
第3は鉛の取り扱いと社会受容性です。代表的なペロブスカイト材料は鉛を含むため、製造、施工、使用、撤去、回収・リサイクルの各段階で漏出防止と安全管理の仕組みを整える必要があります。加えて、初期市場形成には、実証支援、公共施設での率先導入、建築・インフラとの一体設計、認証・標準化などの制度整備も欠かせません。
こうした中、NEDOは2026年3月、ペロブスカイト太陽電池を含むフレキシブル太陽電池について、建物設置を中心とした設計・施工ガイドラインを公表しました。構造設計、電気設計、施工、安全性などに関する考え方が整理されており、今後の本格的な社会実装に向けた基盤整備の一つと位置付けられます。
7.おわりに
次世代太陽電池の中心となるペロブスカイト太陽電池は、日本発の技術として、脱炭素化、エネルギー安全保障、産業競争力強化のいずれの面からも極めて重要です。軽量・薄型・フレキシブルという特徴は、日本のように大規模用地が限られる国にとって、太陽光発電の導入余地を大きく広げる可能性があります。
一方で、技術的な期待だけで普及が進むわけではありません。耐久性、量産品質、コスト、鉛の管理、施工標準、安全性認証、回収・リサイクル、需要創出、制度設計など、多くの課題を同時に解決する必要があります。今後の技術開発、実証事業の成果、社会実装に向けた産学官が一体となった取り組みが注目されます。
執筆:一般財団法人エネルギー総合工学研究所
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