最近の話題・キーワード解説コーナー
Keywords
第19回 解説記事:「地熱開発加速化パッケージの概要」
1.はじめに
地熱発電は、1966年に岩手県の松川地熱発電所(認可出力:2.35万kW)が日本初の商用地熱発電所として運転を開始して以降、開発が進められてきた再生可能エネルギーのひとつです。天候や時間帯に左右されず安定的に発電できることに加え、国内の地下資源を活用できることから、エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立に資する電源として期待されています。第7次エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成において、地熱発電を1~2%程度とする見通しを示しました。これは2023年度実績の約0.3%から大きな拡大を意味します。日本は世界第3位となる地熱資源量を有する一方、発電設備容量は約60万kWにとどまっており、豊富な地熱資源を十分に活用できていない状況にあります。
2.国内の地熱発電の現状と課題
(1)地熱発電の導入状況と導入目標
日本の地熱発電は、アメリカ、インドネシアに次ぐ、世界第3位となる豊かな地熱資源量(約2,347万kW)を有しながらも、高い開発リスクやコスト、自然公園法等の各種許認可や地域調整の難しさから、現在の導入状況は発電設備容量約60万kW、電源構成比で約0.3%にとどまっています。図1は国内における地熱発電の導入状況および主な開発状況です。導入目標については、第6次エネルギー基本計画(2021年)において、2030年度の設備容量約1.5GW、電源構成比約1%への拡大が掲げられました。続く、第7次エネルギー基本計画(2025年)では、2040年度以降を見据えた中長期的な方向性も示されています。政府は「地熱開発加速化パッケージ」に基づき、国主導の掘削調査や許認可・地域調整への支援を通じて、従来型地熱発電の開発加速を図っています。また、さらなる導入拡大に向けて、超臨界地熱、クローズドループ、EGS等の次世代型地熱技術の開発・実証も進められています。経済産業省が主導する「次世代型地熱推進官民協議会」では、2025年に、官民連携による技術開発・実証や投資促進の方向性を示す「次世代型地熱推進ロードマップ」が取りまとめられました。同ロードマップでは、2030年代早期の実用化を目指すとともに、2050年には次世代型地熱発電の累積導入容量約7.7GWの達成を目指しています。
![]() 図1 地熱発電の導入状況・主な開発状況
出典:資源エネルギー庁, 「資源・燃料政策を巡る状況について」,2024.11 をもとに作成 |
(2)地熱開発の特徴と主な課題
地熱発電は、天候や季節に左右されず年間を通じて安定して発電できるベースロード電源であり、発電後の熱水利用(農産物栽培等)を含め、地域資源の有効活用を通じて地域振興・活性化に貢献する点も特徴です。しかしながら、地熱開発にはいくつかの課題があります。主な課題を表1に示します。
表1 地熱開発の主な課題
| 1.高い開発リスク・コスト | 地下深部の熱水・蒸気を確認するための試掘等が必要であり、初期投資リスクや掘削コストが高水準です。 |
|---|---|
| 2.長いリードタイム | 地下調査・環境評価・許認可・地域調整に多大な時間を要するため、通常、調査開始から運転開始までに10年以上を要します。 |
| 3.立地規制と地域調整の難しさ | 有望地の約8割が自然公園内に偏在し、自然公園法や温泉法等の複雑な許認可手続きや、温泉事業者・地元関係者との合意形成に時間を要する課題があります。 |
出典:資源エネルギー庁, 「資源・燃料政策を巡る状況について」,2024.11 をもとに作成
3.地熱開発加速化パッケージ
資源エネルギー庁の「地熱発電の推進に関する研究会」での議論を踏まえ、2024年11月に経済産業省と環境省の連名で地熱開発加速化パッケージが策定されました。その背景には、表1で示した豊富な地熱資源を活用する上での構造的な課題があります。これらの課題を克服し、国主導で初期リスクを軽減するとともに、関係省庁が連携して許認可や地域調整をワンストップで支援し、地熱開発を加速させることを目的としています。主要施策を表2に示します。
表2 地熱開発加速化に向けた主要施策
| 1.地熱フロンティアプロジェクト | JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)が自ら噴気試験等の資源量調査を行い、掘削坑井やデータを事業者に引き継ぐことで、初期開発リスクやコストを大幅に低減します。 |
|---|---|
| 2.ワンストップのフォローアップ体制 | 経済産業省・環境省・林野庁が連携する「地熱連絡会」の運用や地熱開発専門官の設置により、許認可手続きの円滑化や地域との理解醸成を伴走支援します。 |
| 3.次世代型地熱技術の推進 | 官民協議会の設立やGI基金等の活用を通じ、超臨界地熱やクローズドループ等の技術開発・国内実証を支援し、2030年代早期の実用化を目指します。 |
出典:資源エネルギー庁, 「資源・燃料政策を巡る状況について」,2024.11 をもとに作成
4.地熱フロンティアプロジェクト
(1)プロジェクトの概要
地熱フロンティアプロジェクトは、自然公園内等の未開発で地熱資源のポテンシャルが高い地域を対象に、国・JOGMECが主導して地熱開発を加速する取り組みです。図2に本プロジェクトの調査・開発スキームを示します。本スキームでは、国・JOGMECが先導的に調査を実施し、その成果を民間事業者に引き継ぐことで、開発初期段階のリスク低減を図ります。また、譲渡後も国・JOGMECが継続的に支援するとともに、応益負担の観点から選定事業者となった場合に調査費用を負担するというスキームを見据え、総合評価落札方式を検討する方向性としています。
![]() ![]() 図2 地熱フロンティアプロジェクトの調査・開発スキーム
出典:資源エネルギー庁, 「令和7年度第1回地熱発電の推進に関する研究会とりまとめ」,2025.9をもとに作成 |
(2)JOGMECによる地熱開発支援
JOGMECによる地熱開発支援の概要を表3に示します。初期リスクの低減から資金支援、技術開発、地域理解の推進まで多角的に展開されています。
表3 JOGMECによる地熱開発支援
| 1.初期開発リスクの低減とフロンティアプロジェクト | 自然公園内などの未開発有望エリアで国・JOGMECが噴気試験まで含めた資源量調査を実施し、調査データ等を事業者に提供するとともに、掘削した坑井を事業者の求めに応じて引き継ぐことで、初期開発リスクやコストの低減を図ります。 |
|---|---|
| 2.資金支援(助成金・出資・債務保証) | 事業者が実施する地表調査や坑井掘削への助成金交付に加え、探査段階での出資や開発資金に対する債務保証を行うことでリスクマネーを供給し、最終投資決定や事業化を後押ししています。 |
| 3.技術開発と地域・自治体への伴走支援 | 探査・評価・掘削等の技術開発を進めるほか、アドバイザーの現場派遣や地熱シンポジウム、自治体研究会の開催などを通じて、地域住民や温泉事業者との理解醸成や合意形成を支援しています。 |
出典:資源エネルギー庁, 「資源・燃料政策を巡る状況について」,2024.11 をもとに作成
5.ワンストップのフォローアップ体制
地熱開発加速化パッケージにおけるワンストップのフォローアップ体制は、開発の長期化要因である許認可手続きや地域調整を円滑化・迅速化するための支援策です。経済産業省・環境省・林野庁などの関係省庁や地方自治体、事業者が一堂に会する「地熱連絡会」を運用し、自然公園法や温泉法等に伴う許認可課題の収集・協議・解決を図ります。また、北海道・東北・九州の各経済産業局に地熱開発専門官を配置し、図3に示すように、事業者と関係行政機関との調整や地域理解の醸成を支援しています。これらにより、官民が一体となって個別案件の課題を早期解消します。
![]() 図3 各経産局への地熱開発専門官の配置
出典:資源エネルギー庁, 「資源・燃料政策を巡る状況について」,2024.11 をもとに作成 |
6.次世代型地熱技術の推進
次世代型地熱技術の推進は、従来の天然熱水資源に依存した開発の限界を打破し、日本の豊富な地熱ポテンシャルを最大限活用するための取り組みです。(1)主な対象技術
- 超臨界地熱: 地下深部の超高温・高圧な地熱流体を利用し、1か所当たり10万kW以上の高出力・大規模発電の実現が期待されます。
- クローズドループ・EGS: 地下に流体を循環させる構造や人工貯留層を造成し、熱水が少ない地域でも開発エリアを飛躍的に拡大します。
(2)主な推進施策
- 官民協議会の設立とロードマップ策定: 「次世代型地熱推進官民協議会」を立ち上げ、2030年までの国内先行導入、2030年代早期の実用化、2050年に向けた抜本的導入拡大のロードマップを取りまとめています。
- 技術開発と資金支援スキーム: GI基金の活用やNEDO・JOGMECを通じた実証事業を進め、掘削コスト低減や高効率熱回収システムの確立を目指しています。
7.おわりに ― 地熱発電の導入拡大に向けて
地熱発電は、脱炭素化とエネルギー安全保障の両面で重要な役割を担う電源です。地熱開発加速化パッケージでは、国・JOGMECによる開発初期段階のリスク低減に加え、関係省庁の連携による許認可手続きの円滑化や地域理解の促進を通じて、地熱発電の導入拡大を図ることとしています。今後は、地熱フロンティアプロジェクトの調査成果が民間事業者の投資判断や実際の開発案件につながるか、また、許認可・地域調整の支援が開発期間の短縮につながるかが重要な評価点となります。執筆:一般財団法人エネルギー総合工学研究所
11月解説記事のご案内
11月の解説記事では、地熱発電のさらなる導入拡大に向けて期待されている「次世代型地熱発電の実用化に向けた動向」を取り上げます。次世代型地熱発電は、従来型の地熱開発とは異なる方法で地下熱を利用し、開発可能性を広げる技術として期待されています。代表的な方式には超臨界地熱、クローズドループ、EGSがあります。
次回の11月号では、これら3方式の特徴、国内外の開発動向、社会実装に向けた課題と今後の方向性を整理します。



