令和6年度 提言
Our Proposal
概要
新エネルギーの導入促進に関する提言[令和6年度]
一般財団法人新エネルギー財団は、第13回新エネルギー産業会議において、「新エネルギー」の導入促進に関する提言を取りまとめ、政府関係等関係各位に意見具申を行う事とし、今年度は「太陽エネルギー」、「風力発電」、「水力発電」、「地熱エネルギー」、「廃棄物発電」の5つの分野について提言を行いました。
ここではその概要をご紹介いたします。
※この概要は下記PDFからもご覧頂けます
2025.4.11に省エネルギー・新エネルギー部長 伊藤 禎則 氏に意見具申をおこないました。

右 : 新エネルギー財団 寺坂 信昭 会長

地熱エネルギー委員会委員長 古川 孝文
廃棄物発電委員会委員長 田中 一幸 氏
風力委員会委員長 飯田 誠 氏
省エネルギー・新エネルギー部長 伊藤 禎則 氏
新エネルギー財団 寺坂 信昭 会長
太陽エネルギー委員会委員長 植田 譲 氏
水力委員会委員長 小井澤 和明 氏
太陽エネルギーの普及促進に関する提言の概要
太陽エネルギー委員会
提言1. 住宅用太陽光発電
自然変動電源による分散型電力システムが直面する課題と、これに対する事業者の取組から、今後の方向性を検討した結果、住宅用太陽光発電の普及拡大策として「分散型電力システムにおける住宅へのエネルギー供給の新たなビジネスモデルの構築」を提言する。
具体的には、住宅屋根に設置する太陽光発電においては自家消費を軸としつつ、余剰電力買取やDR,VPPの機能を活用するとともに、不足分の電力供給料金を含め総合的に消費者の負担を軽減するビジネスモデルを構築する。
住宅用エネルギー機器において、太陽光発電の余剰電力を活用する機能への支援強化を図るとともに、DRreadyの社会実装に向け、需要側調整を実行できる機器および機能への補助金等による普及促進策が必要である。
蓄電池はFIT制度を利用しない自家消費の拡大に有効であり、VPPやアグリゲーター事業にもつながる効果等がある一方、現状の蓄電池販売価格では必ずしも経済性のメリットが出ないため、補助金による普及促進策が必要である。
提言2. 事業用太陽光発電
事業用太陽光発電において、投資インセンティブを確保しながら再エネ電源の電力市場への統合を図るものとして、2022年3月にFIP制度が開始された。しかし現状ではFIP移行は十分には進んでいない。FIP移行が進まない要因を総合的に調査分析し、効果が期待できる施策は積極的に進めることを要望する。
FIP移行が促進されるには、再エネアグリゲーターの市場参画が増加することが重要である。そのためには、潜在的な利用者に対する再エネアグリゲーションビジネスの認知度の向上が必要である。また、制度変更がビジネスの拡大を減速させる懸念があり、制度面の予見可能性の向上も重要である。
再エネ電源が供給する非化石価値について、その価値を需要家にとって分かりやすい長期安定的な制度設計とすることが望まれる。
また、コーポレートPPA(オンサイト・オフサイト)を拡大することが効果的であり、①事業性評価と認知度向上の取組み、②需要家、小売電気事業者、再エネ発電事業者のマッチング促進、③適地の確保、④蓄電池を併設しDRも可能となる設備導入への支援に重点化した補助制度を創設、等の支援策を打ち出すことが必要である。さらに、併行して「CO2排出削減コスト軽減策および自然変動電源調整コスト、賦課金減免制度コスト」をすべてのCO2直接排出者が公平に担う炭素賦課金制度の議論を進めることも有用である。
提言3.太陽電池パネルのリサイクル推進
太陽光発電設備の導入拡大を進めるには、同設備の不適切管理を排除し、リサイクルを推進するだけでなく、リサイクル制度下における、発電事業者の事業予見性を高め、設備導入意欲を喚起し、需要を過度に減退させない施策を講じていくことが極めて重要である。
再資源化費用の算定においては、太陽光発電を最大限導入する目標と両立しうる単価を起点とし、そのバックキャストによる長期的なシミュレーションを行うことが重要となる。導入拡大に配慮した「再資源化コストダウン・高度化ロードマップ」を早期に策定し、事業予見性を確保した上で、関連業界全体での施策推進が必要である。
リサイクル材の有効活用では、重量の約6割を占めるガラスへの対応が最重要課題である。太陽光パネルによるリサイクル材を利用する製造業者(ガラスメーカー等)が、リサイクル材を一定の価格で買い上げるような市場を構築し、再資源化事業者の収益源・インセンティブとする等、リサイクル材の市場創出も含めた総合的な施策が必要である。
提言4. 太陽光発電の持続的な導入拡大に向けた産業育成
ペロブスカイト太陽電池は、太陽光発電が直面する様々な課題を乗り越えながら、再エネの導入拡大・エネルギーの安定供給の実現、産業競争力の強化等に貢献することが期待されているが、取り組むべき課題は少なくない。
第一に取り組むべきは、耐久性に対する懸念の払拭である。国産技術が海外市場を含め他国を凌駕していくための産業政策が必要である。単層ペロブスカイト太陽電池とタンデム型では、性能や期待用途が異なり、確保・構築すべきサプライチェーンも異なってくる。これらの相違や位置づけを明確にしておく必要がある。
また、ペロブスカイト太陽電池に終始することのない、太陽光発電全体の導入拡大に向けたシナリオの提示が必要である。第7次エネルギー基本計画における2040年度に向けた太陽光発電への期待導入規模は数百GWになる見込みである。現状との差をどうやって埋めていくかの道筋を示していく必要がある。
太陽光発電設備の供給・維持についてエネルギー安全保障に基づく判断も必要となる。目安であっても、産業政策と絡めた国産比率の設定を行うべきであり、その達成に向けたサプライチェーンの確保・構築に向けた動きが必要である。
風力発電システムの導入促進に関する提言の概要
風力委員会
1. 目標達成に向けた確実な政策実現
風力発電分野は技術的進展を遂げており、特に洋上風力発電の導入が加速している。日本は着床式洋上風力発電の導入を順調に進めており、浮体式洋上風力にも積極的に取り組んでいる。今後20~30年で風力エネルギー供給が主力電源となる可能性は高いが、導入目標達成に向けては、規模と時期を明確にした政府の強いコミットメントが不可欠である。特に国内風車メーカが不在のため、海外メーカとの交渉力が弱く、調達価格の高騰や納期の長期化が事業の進行を妨げている。このため、国は風力発電導入目標の明確化と共に、国内サプライチェーン強化のための支援策を講じるべきである。また、浮体式洋上風力の分野では、技術開発と事業展開を加速させるため、国際競争力を高めるための政策とともに、エネルギーシステムの整備計画を具体化する必要がある。これらの政策により、エネルギー自給率の向上と産業の成長を促進できるだろう。
2. 2030年-2040年導入目標確実化に向けた課題と提言
2030年の再生可能エネルギー導入目標に対し、陸上風力17.9GW、洋上風力5.7GWが設定されているが、2024年3月末時点での導入量は陸上風力5.9GW、洋上風力0.15GWにとどまる。特に洋上風力の進捗は遅れており、既認定未稼働案件が多く、着工に至っていないケースが散見される。この状況を打破するためには、国による迅速かつ効果的な制度措置が不可欠である。追加的な支援策の実施を通じて、案件の着実な進行を支援し、2030年目標達成に向けての実行力を強化する必要がある。
2.1. 物価高騰ならびに為替変動によるコスト増加
昨今の物価高騰や為替変動により、既に事業認定を受けた再生可能エネルギー案件における事業性が低下し、多くが進展しない状況となっている。国外においては、英国が再エネCfD制度において上限価格を引き上げ、インフレへの対応を強化している。日本においても、「1kWhあたり調達価格/基準価格」の見直しが急務であり、洋上風力に対する価格調整スキームの導入議論を開始したことは適切と考えるが、陸上風力においても同様の課題が存在し、価格調整スキームの適用が求められる。
2.2. 風車調達に関する国際的競争力が低いことに起因するコスト増/長納期化
国内に風車メーカが存在せず、海外からの調達に依存しているが、国内導入目標が小規模であるため、交渉力が低下し、調達コストの増加や納期の長期化が発生している。このため、事業計画の維持が困難となり、風車の発注や工事着工が進まない事態に陥っている。これを解決するため、国は明確な規模と運転開始時期を設定し、強くコミットする必要がある。加えて、海外メーカの進出促進や国内サプライチェーンの構築を支援するため、より高水準の導入目標の設定が不可欠である。
2.3. 国内における電気品の長納期化、電気工事作業員の不足
レベニューキャップ制度に基づく電力施設の修繕・改修が進む中で、電気品の納期が長期化し、電気工事作業員の確保が困難となっている。このため、風力事業の工期変更や事業性の維持が困難な状況に直面している。今後、系統増強工事も予想され、資機材や作業員の不足は一層深刻化するであろう。再エネ導入目標の達成には、電力システム全体の将来工程やマイルストーンを早急に示し、産業基盤を強化することが求められる。
2.4. コーポレートPPA促進に向けた施策未整備
物価高騰や入札制度の影響により、コーポレートPPAによる採算性向上が重要視されているが、オフテイカー情報が不透明であり、市場への参入が困難な状況となっている。また、非化石証書の短期調達が新規発電所建設に繋がらない問題も存在する。特に、RE100を目指すデータセンターとの連携が鍵となり、再生可能エネルギー調達コストの公表や供給安定性の確保が重要である。非化石証書制度の充実と市場予見性の向上を図り、マッチング環境の整備が求められる。
2.5. 各種レーダー規制と風力発電事業の両立
風力発電の拡大に伴い、防衛省や気象庁のレーダーとの両立が重要な課題となっている。しかし、レーダー影響範囲に関する情報が不透明であり、事業者側では妥当性の判断が困難な状況である。風力事業に必要な影響範囲の最小化や情報開示の促進が不可欠であり、代替レーダーの設置や透過技術の活用など、官民連携による解決策を模索すべきである。加えて、最大2年の協議期間の短縮も求められ、円滑な事業推進に向けた環境整備が急務である。
2.6. 系統制約の増加、抑制率の上昇
再エネ導入の拡大に伴い、全国的に出力抑制が増加し、事業者は将来予測が困難な状況に直面している。これに対し、国による出力抑制率の目標設定が求められ、ダイナミックレーティングの活用など抑制低減策の強化が必要である。また、再エネ適地と系統を繋ぐローカル系統の整備計画には国が関与し、情報開示と需要誘導を進めるべきである。さらに、調整力として再エネ電源を活用し、蓄電池導入支援を強化することで、安定した供給体制を実現すべきである。
2.7. 保安林解除手続きの長期化・実質不許可化の改善
陸上風力の適地となる山林尾根部の多くが保安林に指定されており、保安林解除手続きの長期化が未稼働案件の増加を招いている。特に、傾斜25度以上の「第1級地」を含む案件は解除が困難であり、開発が停滞している。保安林機能と風力発電の両立を目指し、合理的な解除手続きの改善が必要である。また、「公益上の理由」に基づき、風力発電を解除対象に加えることで、より柔軟な対応が可能となる制度見直しが求められる。
2.8. 地域との合意形成の円滑化
風車の大型化や事業規模の拡大に伴い、地域との合意形成が一層重要となっている。しかし、十分な理解を得られずに事業撤退に至る事例も発生している。国のカーボンニュートラル方針や再エネの価値が地域に浸透しておらず、局所的な反対が課題となっている。国主導でポジティブゾーニングを推進し、風力発電の社会的受容性を高める施策が求められる。再エネ促進区域設定時には事業者の意見を反映する仕組みを整備し、専門人材の育成を通じた地域との対話促進が必要である。
2.9. SEP船の確保
洋上風力の促進区域設定が進展する中、風車据付に必要なSEP船の不足が重要な課題となっている。特に、風車の大型化に伴い、高いクレーン能力を持つ船舶の確保が急務である。工事の遅延を防止し、計画的な導入を推進するために、必要なSEP船の供給確保に向けた施策が必要である。具体的には、新造船の後押しを行う風力導入計画の策定や補助金の提供、さらには海外船の買収支援など、国の積極的な支援が求められる。
2.10. 基地港湾の整備
基地港湾の整備は、洋上風力発電の導入及び浮体式風力展開の前提条件であり、特に風力発電ポテンシャルが高い地域では基地港湾の不足が問題となっている。今後は、既存設備の有効活用や港湾連携、補助港湾の整備を進める必要がある。基地港湾の指定や必要な工事については、関係者の意見を反映させ、地域振興を視野に入れた整備が求められる。短期的には基地港湾の早期整備と港湾連携の実現が課題となっている。
3. 風力発電の適切な導入拡大を推進するためのインフラ整備に関する提言
3.1. マスタープランの早期実現とプッシュ型系統整備への転換
風力発電の導入拡大には、長距離海底直流送電を含む地域間連系線の整備と関連する地内系統整備が不可欠であるが、現時点では具体的な計画が明確化されていない。短期的には、風力ポテンシャルが高い地域における系統整備を進め、地域間連系線と地内系統の整合を図ることが求められる。また、欧州の事例を参考に、洋上風力向けのセントラル方式の進化や、投資予見性の向上を目的としたプッシュ型系統整備の推進が必要である。さらに、費用負担の仕組みの見直し検討や次期マスタープランの策定が急務である。
3.2. 陸上風力導入拡大に向けた系統整備
陸上風力の導入拡大にあたっては、カーボンニュートラル達成に向けた導入量の目標設定と、持続的なPDCAによるフォローアップが求められる。加えて、導入拡大に向けては、ハブ変電所の設置等による系統整備の円滑化と低廉化が必要であり、系統制約に対応した追加導入のための施策も重要である。既存風車や小型風車の更新や容量を減らさないための施策が求められる。
3.3. 再エネの大量導入を前提とした系統運用の次世代化
再エネの大量導入に向けて、現行の一般送配電事業者は自社エリア中心の運用が主であり、広域的な系統運用により、再エネの効率的運用や出力抑制の最小化、災害時の需給調整の最適化を目指し、ナショナルTSO(送電システム運営者)の設立を検討し、全国規模での系統運用の最適化を目指すことが必要である。これにより、エネルギー安全保障の強化やレジリエンス向上が期待される。
3.4. 電力系統における流通設備サプライチェーンの整備
レベニューキャップ制度の導入に伴い、送配電事業者は設備更新計画を進めているが、変圧器や開閉装置の需要が急増し、電機メーカの生産能力が限界に達している。このため、風車や系統連系設備の調達が滞り、再エネ導入が遅れる恐れがある。短期的には、電機メーカの生産能力拡大を促進するための投資環境整備や、施工会社の能力強化を図るための支援策が必要である。
4. 社会システム変革を遂げるエネルギー政策への提言
4.1. エネルギーセキュリティの確保に向けて
風車の技術や運転維持技術が海外に依存しており、国内サプライチェーンが脆弱な状況にある。特に、ウクライナやパレスチナでの国際紛争後、欧米市場の需要が増加し、技術情報の取得が困難となっている。短期的には、風車やBOPの国産部品を2025年度から導入し、国内サプライチェーンの強化を図るため、型式認証基準の柔軟な運用が求められる。長期的には、国産技術による風力発電システムの開発と、運転維持体制の整備が必要である。
4.2. 国産化
日本の風力発電所の建設地は風速が低く、欧州型の風車では経済性が成り立たない。また、日本独自の地震や台風、雷、乱流などの環境に対応する風車が不足しており、外国メーカが提供する風車では十分な適応が難しい。短期的には、撤退した国内メーカのライセンス公開や認証取得補助、日本型風車の概念設計を進めることが求められる。長期的には、日本の環境に対応した風車技術の再構築と、国産風車メーカ・部品メーカの再構築が必要であり、専門技術者の養成やサプライチェーンの確立、必要な資金調達などの具体的な計画が求められる。
4.3. 産業育成
2019年に国内風車メーカが撤退したことにより、風車本体の産業規模が縮小し、部品の国内市場も厳しい状況が続いている。このため、風力産業の再活性化には、国主導で新規・再参入を促進し、国産風車や部品開発を優遇する政策が必要である。また、標準化とオープンイノベーションを推進し、風車および部品メーカの育成を進めることが産業育成にとって重要である。
4.4. エネルギー・経済安全保障の確保に資する国内サプライチェーンの強靭化
風力発電は純国産エネルギーであるが、主要設備は依然として海外に依存している。再生可能エネルギーとしての風力発電は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて重要であるが、国内サプライチェーンは依然として脆弱であり、エネルギー・経済安全保障の観点から懸念が残る。国内サプライチェーンの強化に向けては、設備投資支援や税制優遇、国内製造の優遇措置、国内企業の参入促進、部品・コンポーネントサプライヤーの育成を迅速に進める必要がある。
4.5. 地域発展
風力産業における国内風車メーカの撤退により、技術の空洞化が進み、地域経済に悪影響を及ぼしている。地域発展には、地方自治体と先進企業のマッチングや、再参入企業への支援が重要である。長期的には、風車運転・維持情報の開示や地域O&M事業者の参入機会増加、事業者公募において地域貢献を重視する施策が求められる。
水力発電の脱炭素社会実現への貢献における課題解決に向けた提言の概要
水力委員会
1.新規水力開発/リプレースに向けた課題解決
水力開発の有望地点は山間奥地に多く、土木設備や系統接続に係る費用が増加する傾向にある。また、水力発電は設備の耐用年数は長いものの初期投資の負担が大きく運転初期段階での発電コストが高くなる特徴があるため、初期投資の負担を軽減する助成制度などが必要である。さらに、既存の水路工作物等を利用した出力1,000kW未満の小水力発電の開発が、FIT制度やFIP制度、各種補助金により着実に伸びている一方で、調査・計画から運転開始までのリードタイムが長く、かつ初期投資が大きくなる一定規模以上の水力発電所の新規開発は伸び悩んでいる状況にある。
エネルギーミックス実現のためには、水力発電の量的拡大を飛躍的に押し上げる新規地点開発の促進に加え、既設水力発電所の増強によるエネルギーの有効利用が必要であり、以下の支援措置が求められる。
a)FIT・FIP制度の見直し
b)水力発電の特徴に則した普及拡大支援
c)許認可の緩和・迅速化
2.ダムが有する機能・エネルギーの有効活用による水力発電の増加
近年、国土交通省のハイブリッドダムの取り組み、内閣官房の水循環政策をはじめとして、ダム運用の高度化、既存ダムにおける発電施設の新増設、ダム改造・多目的ダムの建設等により、水力エネルギーを有効活用し、水力発電の増加を図る機運がますます高まっている。こうした取り組みを加速させるためには、現行の技術、制度においては様々な課題があり、以下の支援措置が求められる。a)ハイブリッドダム運用のための降雨量、流入予測の高精度化およびダム運用の高度化に対する支援
b)多目的ダムへの発電参加に係る費用負担の見直し
3.変動性再エネの急増に伴う揚水発電の評価
近年の風力発電、太陽光発電といった変動性再エネの導入拡大及び将来的な再エネ電源の主力電源化に伴い、系統安定化のために電力貯蔵施設としての揚水発電所の重要性が高まっている。
一方で、現在の市場制度では、揚水発電の有する機能、果たす役割について、十分に価値化されていない実態があり、また既設の揚水発電所の老朽化が進む中、国全体での揚水発電の必要導入量が見通せないことから、多額の投資が必要な揚水発電の新増設への支障となり、施工力維持も難しくなりつつある。
こうした状況を踏まえ、以下の措置を要望する。
a)価値化されていない揚水発電の機能の価値化
b)揚水発電の維持拡大への支援
c)変動性再エネの導入量や系統計画の増強シナリオを踏まえた揚水発電の導入量の公表
4.既設発電所の持続性の確保
既設水力発電所は運転開始から60年を越えるものが約7割を占めており、その多くは山間部に立地している。これらの水力発電所が将来にわたり再生可能エネルギーとして一定の役割を果たしていくためには、昨今の水力発電を取り巻く環境や状況の変化を踏まえつつ、発電所やダムの機能維持・増強を行っていく必要があることから、以下の支援措置が求められる。
a)既設発電所のモダナイゼーションへの補助
b)自然災害に対するレジリエンス強化に向けた支援
c)既存ダムの持続的な活用の観点からの堆砂対策への支援
5.地域との共生関係構築に資する理解醸成策の拡充
水力開発は、その開発規模の大小に関らず、立地地域と良好な共生関係を構築し、その理解を得ながら持続的に取り組む必要がある。また、建設後の水力発電の円滑な事業運営のためにも、立地地域の理解醸成が不可欠である。加えて、地域が主体となって水力開発に取り組むことに大きな意義があることから地域が主導して行う水力発電の未開発地点の調査・開発が望まれる。
このため、立地地域との共生関係構築、地域の理解醸成に期待できる以下の措置が必要である。
a)電源立地地域対策交付金の交付要件緩和
b)立地地域が水力発電からの恩恵を感じ易くするための取り組み
c)地域も積極的に参画できるような水力発電の導入
地熱エネルギーの開発・利用推進に関する提言の概要
地熱エネルギー委員会
提言1 新規地熱開発への支援
2050年カーボンニュートラルを見据えた2030年における地熱発電導入目標に対して現時点では乖離がある。目標達成には更なる調査・開発が不可欠で、今後はポテンシャルが高い自然公園内等の開発や難易度の高い酸性熱水利用等の増加が想定される。これらは、山間部での開発や酸性熱水への追加対策等のため、開発コストの増大や開発期間の長期化が見込まれる。この状況を踏まえ以下の提言を行う。
- 地熱開発は、リードタイムが長く、開発地点も限定的で、設備の大量導入によるコスト低減が見込めない。しかし、開発コストの上昇傾向はFIPの基準価格に反映されず、逆に基準価格引き下げの懸念もある。よって開発コストの上昇を基準価格の設定に適正に反映させる柔軟な運用を要望する。また、地熱発電の特徴を考慮の上、事業予見性が損なわれ、事業性が失われてしまうことが無いよう、フォーミュラ方式の移行について経過措置の導入を要望する。
- 地熱開発は、リードタイムが長く、坑井掘削を含む資源量調査に要する費用は膨大であり、新規の開発が進んでいない状況となっている。この状況から次の支援・施策を要望する。
① JOGMEC資源量調査事業費助成金交付事業の事業年度に関する柔軟な対応、複数年度による一括精算、及び助成率に基づく前払いの制度
② JOGMEC先導的資源量調査の後利用に関する情報提供と柔軟な運用
③ 自治体及び温泉事業者から理解を得るための国又はJOGMECによる支援
④ 温泉の保護や秩序ある地熱開発促進を目的とした法的手当て
⑤ 坑井掘削に関わる人材確保や掘削資機材不足を補うような環境整備の支援 - 地熱開発は、発電出力を確定させるため長い期間の調査が必要となるが、系統接続の可否や、工事費負担額等に係る不確実性が伴い、地熱開発に対する投資判断を難しくしている。この状況から次の支援・措置を要望する。
① 地域偏在性の高い地熱発電の系統接続に係る優先枠の確保
② 資源量評価に時間を要する地熱発電の特性を考慮した接続契約の措置
③ 山間地を含む地熱開発を促進させる系統接続工事に係る支援 - 地熱調査および開発における坑井掘削調査では、坑井掘削基地造成で保安林内の作業許可あるいは保安林解除などを受けなければならない場合が多い。この状況から次のような対応を要望する。
① 作業許可・保安林解除を問わず、包括的かつ合理的な対処方針の策定
② 保護林についても、一律に貸付を禁止するのではない柔軟な運用
提言2 既設地熱発電所への支援
2050年カーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーによる発電電力量の増加が必要であり、このためには新規地熱発電所の開発に加えて既設地熱発電所の発電電力量を維持・増加させる必要がある。しかし、国内の地熱発電所における発電電力量は1997年をピークに減少している。その要因として、既設地熱発電所の蒸気生産量や還元能力の低下などにより設備容量に対する発電電力量(設備利用率)が低下していることが挙げられる。また、老朽化、旧式化に伴い発電設備の最適化が図れていない状況が挙げられる。この状況を踏まえ以下の提言を行う。
- 蒸気生産量や還元能力の低下に対しては、補充井(生産井、還元井)掘削、および既存井の改修工事(サイドトラック等)が、効果的かつ即効性のある対策であるが、昨今の掘削費の高騰により補充井掘削等の投資採算性が低下している。更に、操業継続に伴う還元熱水の混入による地熱貯留層の局所的な温度・圧力低下や、貯留層の過熱化による強酸性化といった地下の状況変化等による地下資源リスクもあることから、積極的な対策実施が難しい状況となっている。このため、蒸気生産量および還元能力の回復・増大に資する補充井掘削、および既存井の改修工事に対する支援を要望する。
- 老朽化、旧式化に対しては、運転開始後40年を超えるいくつかの地熱発電所においてリプレースFITに伴う設備最適化が進められているが、いまだ全体設備の更新時期に至っていない地熱発電所においては実施が難しく、設備最適化ができていない状況である。したがって、最適化ソリューションの導入を促進する支援・補助制度の創設を要望する。
提言3 技術開発の推進
これまでJOGMECや国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)を中心として、複数の地熱技術開発事業が進められており、様々な新技術が開発されている。特にNEDOで研究開発が行われている超臨界地熱発電は、国内の地熱発電容量を現在の数十倍以上にできるポテンシャルがあるとされている。2024年11月に発表された地熱開発加速化パッケージでは、次世代型地熱技術としてEGS、クローズドループ、超臨界地熱等が取り上げられており、各技術の課題と社会実装までのロードマップが示された。
このロードマップを達成するためには、技術開発を加速する必要があるが、民間事業者単独では経済的に困難であり、先に示された次世代型地熱技術を含む、地熱発電の導入拡大に係る技術開発について、引き続きJOGMECおよび NEDOの主導による推進の加速を要望する。
廃棄物発電システムの導入促進に関する提言の概要
廃棄物発電委員会
提言1:「出力制御における廃棄物発電の位置づけの明確化と周知徹底を」
ノンファーム型接続では、送電容量制約または需給バランス制約による出力制御の実施が前提となる。しかし、出力制御順の中で廃棄物発電の位置付けが明確にされていないため、自治体によって出力制御順に差異があるなど、混乱が生じている。
このことを踏まえ、ノンファーム型接続における一般廃棄物処理に伴う廃棄物発電の出力制御に関して、次の通り提言する。
- 出力制御における廃棄物発電の位置付けの明確化を
出力制御における廃棄物発電の位置付けについて、再給電方式(一定の順序)においては「⑥ノンファーム型接続の地域資源バイオマス電源(出力制御困難なもの)であること及び優先給電ルールにおいては対象外であることを明確化することを要望する。また、出力制御の対象範囲を次位へ拡大する場合の考え方についても明示すること。 - 関係機関に対する更なる周知徹底を
送電容量制約及び需給バランス制約による出力制御において、廃棄物発電の位置付けを、特に地方自治体及び一般送配電事業者等の関係機関への理解が促進されるよう、更なる周知徹底をすること。
提言2:「廃棄物発電施設における設備利用率向上と地域の廃棄物の混合処理推進を」
廃棄物発電施設は設備利用率が70%程度と低く、十分に活用されていない。その原因は、処理される一般廃棄物の量が設計能力に対して少ないこと、及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法という)」により設備能力の活用を制限されることにある。この余力を活用することにより、総発電電力量を約4割増大させることが可能であり、年間250万tのCO2削減に相当する。
この状況を踏まえて、廃棄物の搬入及び発電に余力のある廃棄物発電施設の能力を十分に発揮させ、廃棄物発電電力量の上積みを図るため、次の通り提言する。
- 処理量規制の弾力的運用を
ボイラを最大連続蒸発量で管理する廃棄物発電施設においては、廃棄物処理法に基づく処理量の基準を弾力的に運用する若しくは処理能力変更手続きを簡素化する等により、廃棄物発電施設の余力の活用を推進すること。 - 他のインフラの排出物や未利用廃棄物系バイオマスの活用を
地域のエネルギーセンターとして、地域特性に応じて、他のインフラ(下水処理施設、し尿処理施設等)の排出物の処理及び農作物非食用部や林地残材等の廃棄物系バイオマスの有効利用に廃棄物発電施設の余力の活用を推進すること。また、廃棄物処理法で規定する一般廃棄物と産業廃棄物の混合積載及び処理の解釈を明確化した環境省からの通知の主旨を改めて関係先へ周知すること。 - 広域処理・施設集約化の継続的な推進を
都道府県の枠を超えた地域ブロックの協議会を活用し、熱回収設備の充実した大規模廃棄物発電施設に処理を集約するための協議を行うなど、都道府県の枠にとどまらない広域処理・施設集約化を推進し、施設の余力活用とともに熱利用を促進すること。
提言3:「廃棄物処理施設のエネルギーセンターとしての位置づけと災害時の弾力的運用の推進を」
廃棄物発電施設は地域活用電源であるため、地域の需要に合わせたエネルギーの有効利用が必要である。また、廃棄物発電施設は自然災害によって生じる災害廃棄物の処理や防災拠点としての機能にも期待が大きい。
地域での様々な期待に応えるための方策について、次の通り提言する。
- 廃棄物処理施設をエネルギーセンターとして位置付けた都市計画の推進を
発電又は余熱利用が可能な廃棄物処理施設をエネルギーセンターとして位置付けた計画を実現させるためには都市計画の中で明確に位置付ける必要がある。都市計画においてEVパッカー車のような先進的な取り組みを導入した廃棄物処理施設をエネルギーセンターとして位置付けるよう政策誘導を願うとともに、そのような取り組みを導入する施設の建設については積極的に優遇支援を行うこと。 - 災害時の廃棄物発電施設の弾力的運用の推進を
災害時に施設を長期間自立運転して地域の人々の生活を支えるために、環境管理基準値を国の基準まで緩めて運転することが可能になるよう国として通知を出すなどの後押しをすること。
災害時の近隣の災害廃棄物の処理に協力するために、提言2に挙げた処理量規制の弾力的運用、処理量基準の軽微変更の手続きの簡素化を行うこと。
提言4:「廃棄物発電における適切なFIT/FIP制度利用申請の確実な認定を」
一般廃棄物処理施設の新たな施設建設にあたり、地方自治体がFIP制度の利用を申請したが、認定されない事例が生じている。これにより、将来の投資回収の予見性の大幅な低下を強いられている。
実態として新設されているものの、既設と同一場所に建て替えることから他電源のリプレース要件を流用して判断されたものと見られるが、施設整備の実情とは乖離しており、廃棄物発電に適用することが適切であるとは言い難い。
FIT/FIP制度利用申請においては、一般廃棄物処理施設整備の事業計画内容を多角的な視点から総合的に確認の上で、実情に即した認定が行われることが重要であること踏まえ、地方自治体が予見性を持って事業を進められるよう、次の通り提言する。
- 一般廃棄物処理施設整備の事業計画に即したFIT/FIP申請の認定を
同一場所における一般廃棄物処理施設の建替え計画に対しては、新設とみなし、FIT/FIP制度の利用を認定すること。新設ではなくリプレースとみなす場合には、廃棄物発電においても適切なリプレース買取価格区分を設定した上で、FIT/FIP制度の利用を認定すること。
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