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第14回 解説記事:テーマ「再エネ海域利用法に基づく入札制度の見直し」
1.はじめに
第7次エネルギー基本計画(以下、第7次エネ基)では、洋上風力を「再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化に向けた切り札」と位置付け、再エネ海域利用法に基づく公募制度などを通じて、2030年までに10GW、2040年までに浮体式も含めて30GW~45GWの案件形成を目指しています。
一方で、洋上風力を取り巻く事業環境は大きく変化しています。国内外で建設費や資本コストが上昇し、入札時点で想定した事業費と、実際の建設・運転開始時点の費用が乖離するリスクが高まっています。洋上風力は、案件形成から運転開始までに長期間を要するため、資材価格、為替、金利、施工費などの変動を強く受ける電源です。
こうした環境変化を背景に、洋上風力の導入拡大に向けては、案件形成に加え、選定された事業を確実に実現するための制度設計が求められています。再エネ海域利用法に基づく公募制度についても、ラウンド4以降に向けた見直しが進められており、単に安い供給価格を提示した事業者を選ぶのではなく、事業を確実に完遂できる事業者を選定する方向へと制度の改善が図られています。
本稿では、再エネ海域利用法に基づく公募制度とこれまでの公募結果を確認したうえで、入札制度見直しの背景、見直しの主なポイント、そして入札制度だけでは解決できない案件形成上の課題を整理します。
2.再エネ海域利用法に基づく公募制度とこれまでの公募結果
再エネ海域利用法は、一般海域において洋上風力発電を長期的・安定的に実施するため、国が促進区域を指定し、公募により事業者を選定する制度です。一般海域は、漁業、航路、港湾、地域利用など多数の関係者が関わる公共的な空間です。そのため、洋上風力発電事業を実施するには、海域利用の調整を行いながら、長期にわたって安定的に事業を継続することが求められます。まず、再エネ海域利用法に基づく制度全体の流れを確認します。一般海域における洋上風力発電事業は、都道府県からの情報提供や協議会での調整を経て促進区域が指定され、その後に事業者公募、再エネ特措法に基づく認定、区域占用許可を経て、建設・運転開始へと進む仕組みです(図1)。
![]() 図1 再エネ海域利用法に基づく区域指定・事業者公募の流れ
出典:資源エネルギー庁, 「洋上風力発電関連制度 制度の概要」 |
公募制度では、事業者の供給価格だけでなく、事業計画の実現可能性、地域との共生、漁業影響への配慮、電力の安定供給、サプライチェーン形成などが評価されます。洋上風力は導入初期段階では発電コストが高くなりやすいため、競争を通じてコスト低減を促すことは重要です。一方で、事業完遂に必要な費用を十分に織り込めない価格での入札が行われれば、事業計画の実現性に影響し、結果として導入拡大に支障が生じる可能性があります。
再エネ海域利用法に基づく公募は、これまで複数のラウンドで実施されてきました。第1ラウンドでは、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域で事業者が選定されましたが、その後、事業環境の変化を受けて選定事業者が開発中止を公表し、公募占用計画の認定取消しが公表されています。第2・第3ラウンドでは、ゼロプレミアム水準での入札や早期運転開始が評価上の焦点となりました。ラウンド4以降に向けた制度見直しは、こうしたこれまでの公募結果や事業環境の変化を踏まえて検討されています(表1)。
| ラウンド | 主な対象区域 | 状況 | 制度上のポイント |
|---|---|---|---|
| 第1ラウンド | 秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、 秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖 |
三菱商事系コンソーシアムが選定。 事業環境の変化を受けて開発中止を公表し、その後、認定の取消しに至った。 |
低価格入札とその後の事業環境変化が、制度見直しの重要な背景となった。 見直し後の制度は、再公募を含む今後の公募に適用される予定。 |
| 第2ラウンド | 秋田県八峰町・能代市沖、 秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、 新潟県村上市・胎内市沖、長崎県西海市江島沖 |
4区域で事業者を選定。 | ゼロプレミアム水準、早期運転開始、国内サプライチェーン形成などが評価上の焦点となった。 |
| 第3ラウンド | 青森県沖日本海(南側)、 山形県遊佐町沖 |
2区域で事業者を選定。 | 価格評価・迅速性評価のあり方が引き続き論点となった。 |
| 第4ラウンド以降 | 北海道松前沖、北海道檜山沖、 北海道岩宇・南後志地区沖 などが公募開始前区域として掲載 |
公募準備・制度見直し段階。 | 事業完遂を重視した公募制度が適用される見通し。 |
(掲載の各区域の公募・事業者選定情報、経済産業省・国土交通省の公募制度見直し資料等をもとにIAEが作成)
3.入札制度見直しの背景
入札制度見直しの背景には、洋上風力を取り巻く事業環境の変化があります。洋上風力は、案件形成から運転開始までに長期間を要し、風車、基礎、海底ケーブル、施工船、港湾ヤードなど多くの設備・サービスを必要とします。このため、資材価格、為替、金利、施工費、サプライチェーンの状況が変化すれば、入札時点の事業計画と実際の事業費が大きく乖離する可能性があります。
第1ラウンドで選定された3海域については、事業環境の変化を受けて選定事業者が開発中止を公表し、その後、公募占用計画の認定取消しが公表されています。このことは、低い供給価格での入札が実現したとしても、その後の費用上昇や事業環境の変化に対応できなければ、事業完遂が困難になり得ることを示しました。
また、第2・第3ラウンドでは、ゼロプレミアム水準での入札や早期運転開始が評価上の焦点となりました。競争を通じてコスト低減を促すことは引き続き重要ですが、価格競争や迅速性評価が過度に働けば、事業計画の実現可能性を十分に評価できないおそれがあります。
このため、ラウンド4以降に向けた制度見直しでは、単に安い供給価格を提示した事業者を選ぶのではなく、長期的・安定的・効率的に事業を実施できる事業者を選定することが重視されています。制度見直しの焦点は、価格競争を否定することではなく、価格競争を維持しながら、事業を確実に完遂できる計画をより適切に評価することにあります。
見直しの主なポイント
(1)価格評価と事業実現性評価
見直しの第1のポイントは、価格評価と事業実現性評価のバランスです。従来の制度では、供給価格を低く提示するほど価格点が高くなり、価格評価が選定結果に大きな影響を与える構造となっていました。この仕組みは、発電コストの低減を促す効果があります。
しかし、資材価格や工事費、金利などが大きく変動する局面では、過度な低価格入札が事業実現性を損なう可能性があります。洋上風力は、多数の設備・サービスを国際的なサプライチェーンに依存しており、入札時点で見込んだ価格と実際の調達価格が乖離しやすい特徴があります。
この点を踏まえ、次回以降の公募に向けた見直しでは、事業実現性評価をより重視する方向が示されています。事業実現性評価については、迅速性評価の比重を下げる一方で、事業計画の実行面やサプライチェーン形成をより重視する方向に見直されています。第2・第3ラウンドと第4ラウンド以降の評価項目を比較すると、制度見直しの重点が、単なる早期運転開始から、事業を確実に完遂する能力の評価へ移っていることが分かります(図2)。
![]() 図2 事業実現性評価点の配点見直し
出典:経済産業省・国土交通省, 「洋上風力事業を完遂させるための新たな公募制度」, 2026.1 |
事業実現性評価では、事業計画の実行可能性、資金調達の確度、サプライチェーンの確保、工程管理、地域・漁業との調整、リスク管理などが重要になります。洋上風力は、発電設備を建設するだけでなく、長期間にわたって海域を占用し、地域と共生しながら運転を継続する事業です。このため、入札時点の価格だけでは、事業者の適格性を十分に判断することはできません。
価格評価については、「想定供給価格幅」の考え方が重要になります。これは、事業完遂のために必要と考えられる供給価格水準を踏まえつつ、事業者による効率化努力を織り込んだ価格帯を設定し、その範囲内では過度に価格点の差がつかないようにする考え方です。
新たな考え方では、供給価格上限額と想定供給価格幅の関係を踏まえて価格点を設計します。供給価格上限額から想定供給価格幅を控除した価格以下で入札した場合には価格点が満点となり、それを上回る場合には、供給価格上限額に近づくにつれて価格点が減少する仕組みです(図3)。
![]() 図3 適切な供給価格での入札がされるための価格点の設計
出典:経済産業省・国土交通省, 「洋上風力事業を完遂させるための新たな公募制度」, 2026.1 |
この見直しにより、一定の合理的な価格水準以下の入札には満点を与えつつ、価格だけで選定結果が決まりすぎないようにすることができます。これにより、価格競争を維持しながら、事業実現性評価の重要性を高めることが可能になります。
(2)迅速性評価とスケジュールの現実性
見直しの第2のポイントは、迅速性評価の扱いです。洋上風力の導入拡大において、運転開始時期を早めることは重要です。再エネ導入量を拡大し、脱炭素化を進めるうえでは、可能な限り早期に案件を稼働させる必要があります。そのため、これまでの公募制度では、運転開始時期の早さも評価対象とされてきました。
一方で、洋上風力では、環境影響評価、詳細設計、風車・基礎の調達、施工船の確保、港湾利用、系統接続工事など、多くの工程が相互に関係しています。いずれかの工程に遅れが生じれば、全体スケジュールに影響します。過度に早い運転開始時期を競うことは、かえって事業遅延や事業実現性の低下につながる可能性があります。
また、風車の大型化に伴い、施工に必要な港湾ヤード、クレーン、作業船の条件も厳しくなっています。サプライチェーンが国際的に逼迫している中では、機器や施工能力の確保に時間を要する可能性もあります。このため、スケジュール評価では、単に早い運転開始を高く評価するのではなく、工程の実現可能性を含めて評価する必要があります。
迅速性評価についても、早期の運転開始を一律に高く評価するのではなく、実現可能な事業スケジュールを踏まえて評価する方向に見直されています。新たな評価基準では、標準的な工程に加えて一定の予備期間を見込む考え方が示されており、無理な前倒し競争を避ける設計となっています(図4)。
![]() 図4 迅速性評価の見直しと事業スケジュールの柔軟化
出典:経済産業省・国土交通省, 「洋上風力事業を完遂させるための新たな公募制度」, 2026.1 |
迅速性評価の見直しは、導入を遅らせるためのものではありません。無理なスケジュールを前提とした入札を避け、結果として案件を確実に進めるための見直しです。洋上風力の導入拡大には、スピードと実現性の両立が必要です。
(3)物価・金利等の変動リスクへの対応
第3のポイントは、物価・金利等の変動リスクへの対応です。洋上風力は、入札から運転開始までの期間が長く、その間に資材価格、工事費、為替、金利が大きく変動する可能性があります。これらのリスクをすべて事業者が負担する場合、将来の不確実性を見込んで入札価格が高くなるか、低い価格で落札後に事業継続が困難になる可能性があります。
したがって、制度設計上は、通常の事業努力で吸収すべきコスト変動と、事業者の努力だけでは対応が難しい外生的な変動を区別することが重要です。ただし、物価・金利変動への対応を広く認めすぎると、入札時の価格規律が弱まり、国民負担の増加につながる可能性があります。
今回の制度見直しでは、次回以降の公募において、資材価格等の変動を基準価格または調達価格に反映する価格調整スキームを適用する方針が示されています。また、既に事業者が選定された案件についても、保証金の増額等を含む新たな制度を受け入れる場合には、価格調整スキームの適用対象となります。ただし、公募の公平性や国民負担への中立性を確保する観点から、反映対象は措置適用後の将来の物価変動に限られ、公募開始時点以降の物価変動をすべて遡及的に反映することは困難と整理されています。
こうした価格調整の仕組みは、事業者を一方的に保護するためのものではなく、長期にわたる事業期間の中で、事業者の努力では対応しきれない外生的な変動をどう扱うかを明確にし、事業継続性と価格規律の双方を確保するためのリスク分担の仕組みです。
(4)落札制限と撤退時ルール
見直し方針では、同一事業者による過度な案件集中を避けるための落札制限や、選定事業者が撤退した場合の取扱いについても整理されています。洋上風力は、個別案件の規模が大きく、案件の停滞や撤退が導入目標全体に与える影響も大きくなります。そのため、事業者選定の段階だけでなく、選定後に事業が進まない場合を想定した制度上の対応を明確にしておくことが重要です。
これらの見直しは、価格評価や迅速性評価の見直しと同様に、事業完遂を重視する制度への転換を示すものです。今後の公募では、価格、スケジュール、事業実施体制、撤退時の対応を含め、事業を最後まで実施できるかどうかがより重視されることになります。
5.入札制度だけでは解決できない課題
入札制度の見直しは、事業完遂の確度を高めるうえで重要ですが、それだけで洋上風力の導入拡大が実現するわけではありません。洋上風力の事業実現性は、系統接続、港湾利用、サイト調査、地域調整、サプライチェーンなど、案件形成を支える条件に大きく左右されます。
日本の洋上風力には、欧州とは異なる地理的・制度的な難しさがあります。適地の多くは北海道・東北など大需要地から離れた地域に偏在しており、電力を需要地に届けるためには広域的な系統整備が必要です。また、日本近海は地形や地層が複雑であり、海底地盤や風況の調査も重要になります。
このため、事業者が入札前にどの程度の情報を得られるかは、入札価格や事業計画の精度に大きく影響します。風況、海底地盤、海象、環境、系統接続、港湾利用に関する情報が不足していれば、事業者は大きなリスクを織り込んで入札する必要があります。逆に、国や関係機関が一定の調査を行い、情報を整理したうえで公募を行えば、事業者間の競争はより実質的なものになります。
この点で、セントラル方式、すなわち国や公的機関が風況・海底地盤等の調査や系統接続の確保に一定程度関与し、案件形成の初期リスクを低減する仕組みの役割は重要です。サイト調査の精度が高まれば、入札価格の妥当性や事業計画の確度も高まりやすくなります。
また、港湾制約も重要な論点です。洋上風力では、風車や基礎の大型部材を保管・組立・積出しするための基地港湾が不可欠です。風車の大型化が進む中で、港湾ヤードの確保、地耐力、岸壁水深・延長、クレーン作業への対応、作業船の受入れ機能などが事業スケジュールを左右します。基地港湾の整備や利用調整が遅れれば、入札で選定された案件であっても、実際の建設段階で制約を受ける可能性があります。
したがって、入札制度の見直しは、単に評価項目を変更するだけでは十分ではありません。系統整備、港湾整備、サイト調査、地域調整を含め、案件形成の前提条件を整える政策と一体で進める必要があります。
6.今後の論点
再エネ海域利用法に基づく入札制度の見直しは、洋上風力政策が「案件形成の拡大」から「事業完遂を前提とした案件形成」へ移る過程に位置付けられます。第7次エネ基が掲げる2030年10GW、2040年30GW~45GWの案件形成目標を実現するためには、事業者が投資判断を行える制度環境を整備することが不可欠です。
今後の論点は、大きく三つに整理できます。
第1は、価格競争と事業実現性の両立です。供給価格を低く抑えることは国民負担の観点から重要ですが、過度な価格競争により事業継続が困難になれば、結果として導入拡大は進みません。想定供給価格幅の設定や価格点の見直しを通じて、合理的な価格水準での競争を促すことが必要です。
第2は、外生的なコスト変動リスクへの対応です。物価、金利、為替、資材価格、施工費の変動は、事業者の努力だけでは吸収しきれない場合があります。どのリスクを事業者が負担し、どのリスクを制度上考慮するのかを明確にすることが、投資予見性の確保につながります。
第3は、入札制度と周辺インフラ政策の一体化です。洋上風力の導入拡大には、系統接続、基地港湾、施工船、サプライチェーン、サイト調査、地域調整が不可欠です。これらの条件が整わなければ、入札制度を見直しても案件の実現性は高まりません。
洋上風力は、中長期的には導入拡大が期待される電源である一方、足元では事業環境の変化により採算性の再調整が進んでいます。第7次エネ基に掲げられた洋上風力の導入拡大を実現するためには、価格競争だけに委ねるのではなく、事業完遂を支える制度、産業基盤、系統、港湾を一体で進めることが求められます。今回の入札制度見直しは、そのための重要な制度基盤として位置付けられます。
執筆:一般財団法人エネルギー総合工学研究所
6月解説記事のご案内
6月の解説記事は、「洋上風力発電の国内サプライチェーン構築」です。洋上風力は大規模な建設・輸送・据付を伴うため、部材製造から施工、O&Mまでを含むサプライチェーンの整備が導入ペースを大きく左右します。第7次エネ基でも、再エネの拡大とGX推進の両立に加え、成長産業としての洋上風力産業の育成が産業育成の中核と位置付けられています。一方、国内では製造投資の採算性、案件パイプラインの見通し、作業船・施工能力、港湾ヤードやクレーン能力、人材育成などが複合的に絡み、単純な「国産化」の議論だけでは実効的なサプライチェーン形成にはつながりません。そこで、風車・基礎・海底ケーブルなどの主要機器、施工・据付、港湾インフラ、O&M体制などの観点から、日本が直面する制約と必要な施策(標準化、長期案件形成、投資回収の見通しづくりなど)を整理します。



